ボツって非公開にしていましたが、作品整理してる間に読み返してみたら、まあまあ面白かったので、再録します。
この作品への苦情は作者まで。
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すごく美味しい那須牛のローストビーフ丼を食べた。
那須は、皇室の御料牧場や御用邸もあり、実は軽井沢、箱根に並ぶ古くからの別荘地なんだよね。
そんでお肉が、ただ柔らかいだけじゃなく、しっかりしていて、繊維ひとつひとつが生きてる感じで、とにかく美味しいんだ!
かかってるソースも、千切りキャベツも、全部バランス良くて。
背高がこれを食べられないのが、すごく残念だ。
ううん、正確には食べる事はできる。
ただ、味がしないだけ。
食べることが栄養摂取の意味しか持たなくなっちゃって、味わう楽しみが奪われるなんて、こんな拷問、無いよね。
背高はある日突然、フォークってカテゴリーの人間になっちゃった。
フォークになると、全ての食べ物の味が失われる。
嗅覚や触覚は残るから、匂いや食感はあるらしいんだけど。
その代わり、ケーキってカテゴリーの人間だけを甘く感じるんだって。
そして俺が、その、ケーキだったんだ。
こんな奇病にかかっちゃうなんて、背高が一体どんな悪いことしたって言うんだろ。
俺たち人間の喜びって、ほとんど食べる楽しみでできてるのにさ。
おまけに……。
「ボクはキラキラに味がするだけで、よっぽど幸せやよ?
キラキラは、ほんまに美味しい。
全身練乳みたいに甘いんや」
練乳て………!
そりゃ、嬉しいよ?
マズイって言われるより何十倍も嬉しい。
でもさ、甘味しか感じられないのも味気ないと思っちゃうんだよ。
おまけに、俺にしか味がしないってせいか、前よりずっと長く頻繁に、全身キスされるようになっちゃって。
なんか、体のあちこちで味が違うとか言って。
……つまり、俺はしょっちゅう舐め回されてるわけで。
健康な成人男性の俺としては、色々……困ることもあるわけよ。
どうやら、結果としてどうしても出しちゃう「それ」も、ものすごく美味しい、らしいんだけどさぁ。
匂いを感知できるのが幸い。
でないと、何を食べたがるかわかったもんじゃない。
ともかく。
俺としては、背高に他の味も少しはするようになったらいいな、って思ってたんだ。
最近カレーパンに凝ってる俺は、あちこちのパン屋さんのカレーパンを買って食べてる。
その日も、練習の合間のオヤツタイムに、俺は床に座り込んでモグモグやってた。
そしたら、いきなり後ろから「キラキラっ!」って背高がガバって抱きしめてくるから、俺はバランスを崩してしまい。
そのまま背高の腕の中に倒れて、むチュッてキスまでされてしまった。
そしたらいきなり、
「カレーの味!」
がばって顔を離して叫ぶじゃん。
そりゃそうでしょ、今俺の口の中には、まだ食べてる途中のカレーパンが……て、えええっ?!
「背高ッ、味したの?」
「した!
めっちゃ懐かしい、美味い味!」
「今口の中にあるパン、これだよ?
食べてみて?」
俺が差し出した食べかけのパンを、背高は顔を輝かせてあむって食べたけど、途端に表情が無くなる。
「……ダメや。
何も味せえへん」
「そんな」
「……キラキラ、すまん。
もう一回試さして?」
え?
試すって、どうすんの?
「これ、もう一回口の中に入れて?」
俺はパンをかじった。
背高はそのままキスしてきたけど、
「あかん。
キラキラの甘い味だけや」
何だろ、ただの偶然なのかな。
俺はくちの中のパンを飲み込もうと口を動かす。
もぐもぐ。
そしたら背高がいきなり俺のあごをつかんで……。
ちゅうっ。
「した!
カレーの味!」
俺たちは、そこから色々試してみた。
ちょっと汚いけど、咀嚼したものを口から出して食べてみても味はしないらしい。
味は、あくまでも俺のくちの中にあって、3回以上噛まれて飲み込む前のものに限られて感じるようだった。
カレーパンだけでなく、ラーメンも、おにぎりも、おでんも肉まんも……。
逆に、スープやコーヒーなどの液体ものはだめだった。
チョコも、口移す前に溶けちゃうからダメだった。
「キラキラにはほんま、すまんなぁ。
やけど、めっちゃ嬉しい。
なんや生きる希望がでけた。
味がするって嬉しいもんなんやなぁ」
背高は、食べる前に俺から教えてもらった味を覚えて、ものを食べるようになった。
病院に行ってこのことを話すと、大層驚かれた。
今までこんなことに気付いた人はいなかったんだって。
だいたい、ケーキの人は亡くなってしまうし、フォークの人も自殺したり、食欲を無くして栄養失調になって早逝(そうせい)したりするから、研究なんかされた事が無かったらしい。
俺と背高は、健在する珍しい組み合わせだって言われた。
俺たちは、今後もこの病気の謎を解く被験者として協力することになった。
「きみたちがカップルだから、気が付けたんだろうなぁ。
ふつうは、他人の口の中のものなんて、汚いって思って、食べてみようなんて思わないよ」
って、先生が言うから、俺は内心ムカついて、
(恋人の口の中が汚いなんて思ってたらキスできないじゃん!
そんなカップルなんか、カップルの風上にも置けないよ!)
って怒ってた。
背高はそんな俺に気付いて、肘で脇をつついてきたから、俺は飛びっきりの営業スマイルで、先生を見つめてやった。
あとで背高に
「あんな顔して他の男を見つめるんやないッ!
先生、顔、赤くしとったやないか!」
って怒られたけど、知らないよ!
俺のせいじゃないもーん。
きらきら☆きらんっ
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。