第57話

第7章「好きすぎて」
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2023/05/23 08:26
目を覚ますと、私は冷たい
コンクリートの地面に寝っ転がっていた。

天井も、壁も一面灰色。

どこか不気味な雰囲気。


そう言えば、私、不良に遭遇して
逃げようと思ったけど捕まっちゃったんだっけ。



「おきた?」


『わっ、あ、はい…』



辺りをぐるりと見渡しながら
さっきまでのことを思い出していた。

すると、ガチャリと扉が開いて
さっきの不良の1人が入ってきた。



「びびんないの?俺みたいなの見て」


『びびってますよ。あなたには
びびってないように見えるかもしれませんが、
足はガクガクです。さっきも、今も。』


「口だけは達者、ってわけだな」



ガハハ、と笑う男。

何がそんなに面白いのだ、とでも言いたくなる。

いや、ただのゲラか。



「覚えてる?」


『何がですか』


「さっきのこと」


『途中までなら…。あなたとは別の人に
腕を捕まれたところからはわからないです。』


「まっ、そうだよなぁ。」



なんて言う不良。

彼はさっきの一連の流れを話してくれた。

私は単に睡眠薬によって眠らされていたらしい。

そしてその間にここに連れてこられた。



『でも、なんでですか?』


「は?」


『あなた方は言いましたよね?
"お前、目黒の女だろ?"って。』


「あぁ、言ったな」


『勘違いされてるようなので言っときますけど、
私は蓮とはただの幼馴染み…ってか、
友達ってだけで恋人とかそんな関係はないです。』



淡々と話す私に彼は驚いた顔をしている。

なんだ、こいつ。とでも言いたげな。


だけど、自分自身も驚いている。

蓮と友達以上になりたいと何度も願って、
叶わないかもって何度も1人で勝手に傷付いた。

それなのに、「恋人なんかじゃない」って
泣きもせず言えている自分には驚きだ。



「好きなの?」


『えっ?』


「目黒のこと」


『あ、まあ、そう、ですけど…』


「俺は目黒とは敵だけどさ、
姉ちゃんの恋は応援してやるよ。」


『え、なんで…?』



この男の真意がわからない。

敵のくせに何を言ってるんだ。

私の恋事情なんてこの男には
1ミリたりとも関係ないのに。



「別に目黒と俺らの喧嘩と
姉ちゃんの恋は全く関係ねぇから。」



そう言う彼は本当は優しい人なんだろうと思った。

優しくない人なら、私のこととか
どうでもいいと思うはずだから。

この人たちは蓮を誘き寄せるための
餌として私を捕まえただけ。

だから彼らからしたら、
私は別に放っておいていい存在。



『優しいんですね』



私はそう微笑んだ。

この人と蓮が敵対していることなんて忘れて。

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