第54話

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2023/05/20 07:00
結局、1人になった。

先輩たちの部屋で1人静かに置き時計を眺める。

秒針がチクン、タクン、とただ進むだけの空間。

どこか、虚しいような雰囲気。



岩本「ただいま」



ガチャッと音がして岩本先輩が
そう言いながら入ってきた。

ふにゃっと微笑んで。

それは癒しのある笑顔だ。



『お一人、ですか?』


岩本「ふっかは目黒のこと送ってる。
阿部はー、……片付け?ってとこかな。」



阿部先輩の名前をだしたあと、
先輩は少し悩みぎみにそう言った。

ちょっと曖昧な言い方だ。



『なる、ほど…』



でも、そこまで追及する話でもないので、
私はその一言で終わらした。



岩本「なんか飲む?…つっても、コーラしかねぇわ」



ははっ、と笑う岩本先輩。

彼はなぜかある冷蔵庫を開けて
コーラの入ったペットボトルを取り出した。

そして、それを私に渡した。



『ありがとう、ございます…』


岩本「ふっかが好きでさ。コーラ。」


『そうなんですね』


岩本「貯蓄いっぱいあるわけよ。
また欲しくなったらいつでもここおいでね?」


『はい、お言葉に甘えて…』



それから岩本先輩は蓮の話は一切しなかった。

「ふっかと阿部と○○行った」とか、
「学校の近くのケーキ屋のいちごの
ショートケーキがうまい」だとか。

そんな、全然関係ない話。


たぶん、岩本先輩は何かを知ってて、
私を蓮から遠ざけようとしているのだと思う。

結局、そんな他愛もない話をして、
次のチャイムが鳴ると、私は教室に戻った。

それは1時間目の終わりのチャイム。



康二「またサボったな!?」


『ふふっ、さぼっちゃった(笑)』


ラウ「不良じゃーん(笑)」




教室に戻れば、康二くんとラウにそう言われた。

いつもの、軽いいじり。

そんな2人のおかげで、蓮に対して
抱いていた不安や心配は少し軽くなった。

今思えば、いつだって私の心を
軽くしてくれるのはこの2人だった。


まさに、この2人が最高の友達なんだろう。



深澤「あなたちゃん」


『あっ、深澤先輩!』



ラウと康二くんとお昼を食べてから
トイレに行って、その帰り道。

廊下を歩いていると、
背後からそう声をかけられた。

聞き馴染みのある声で、振り向けば先輩だった。



深澤「目黒のことは、大丈夫。」


『…それは、心配するなってことですか?』


深澤「…うん。怪我とかも、そんな酷くねぇし。
ちゃんと家に帰した。だから、もう大丈夫。」



深澤先輩は私を安心させるように
優しい声で優しい顔でそう言った。



『誰、だったんですか。あの男の人たち。』


深澤「え…?」



けど、私がすかさずそう聞いたから、
先輩は目を丸くして驚いている。

先輩はこの話を終わらすつもりだったのだろう。

岩本先輩も深澤先輩も、
私に何かを隠してるようで、それが嫌だった。


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