なんとか、耐えた。
泣かずに、ちゃんと、帰ってこられたのだ。
母に夕飯は要らないと告げて、自室に荷物を投げつけた。
暫く呆然と立っていると、自然と涙が出てきた。『一緒に帰るくらい良い』?僕が嫌なんだ。君が笑顔で、僕に恋人の惚気を聞かせるなんて、耐えられない。
約10年の片思い、分かってる。行動を起こさなかった僕が悪い。おまじないなんかに頼った僕が悪い。怖がっていた僕が悪いなんてことは分かってるんだ。でも…!!!!
グッと拳を握りしめ、泣いた。声は出さずに、ずっと。
何十分たっただろう。ようやく、涙が少し収まり、思い出した様にベットに向かう。
そして、あの枕の下の写真を取り出した。
写真の下に、ぽたぽたと涙が落ちる。
あぁ、まだこんなに出るもんなんだな。
自嘲気味に笑うと、あの夢の風景が思い起こされる。
オレンジに輝いく彼女が、照れた表情で僕に微笑みかける。
ー恋人にしか見せないであろう、あの顔で
そっと僕は、枕の下に写真を入れる。
部屋の電気を消し、ベットに寝転がる。
そして、おまじないの最後の言葉。溢れる涙のせいで、声は震えるが、それでもはっきりと声に出す。
最後まで届くことのなかった言葉。
届けるのを躊躇った言葉。
……夢の中でだったら、この言葉は君に届くのだろうか。
また、あの微笑みを僕に向けてくれるのだろうか。
ーそうだったら、どうか夢から覚めないで
叶いもしないその願いを無駄に祈って、
僕は眠りについた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。