第5話

2.
2,052
2023/05/27 14:00





全て断ち切ったとはいえ


それで孤独を感じるのは


あまりにも恥ずかしかったから


都会の方で部屋を借りた


諦めきれなかった教師の仕事も


塾の講師、なんて形で再開した


贅沢な暮らしでは無かったけど


こちらの方が何百倍も幸せだった。


朝は割とのんびりできる


ぐーっ、と体を伸ばして


深呼吸をすることから


私の1日は始まる


携帯も買い替えて


でも、電話帳に名前は一つもない


親しい友達もいなかったから


別に問題はなかった


すぐ近くに駅があるせいで


電車の音で孤独も紛らわせた


朝のニュース番組


私の誕生日は4月25日牡牛座


占いコーナーで牡牛座は一位だった



「良いことあるかもー、」



そんな、気の抜けた独り言を言いながら


ゆっくりと支度をして


電車に乗って数駅


しかも今日は授業が少ないから


夕方には帰れる


お疲れ様です、と挨拶を交わして


家とは反対方向の電車に乗った


人がごった返すビル街


買い物をするのには便利だが


人が多すぎて疲れる時もある


ギリギリで信号が赤になって


私の横を走って通り過ぎて行く人


都会の人はいつもなんだか忙しない


青になってから歩き出して


ちょうど交差点のど真ん中へ来たところだった


なんとなく視線を向けた先


疲れ切った顔に埋もれて見えた


控えめなその笑い方を私は知っている



「え、。」



無意識に止まった体に


後ろから人がぶつかる


舌打ちをして、冷たい目で私を見る



「すいませんっ、」



頭を下げて、


ゆっくりと上げた先に


彼はまだいた。


忘れらことのないあの顔で


あの目で、


しっかりと私を捉えていて


言葉にできない感情が一気に押し寄せてきた


でも、会っちゃダメだ


私にはわかる。


もう終わったこと。


必死で忘れようとした努力が水の泡だ


つま先の向きを無理やり変えて


チカチカと点滅する信号に


急かされるように横断歩道を渡り切った


そんな、全力で走ったわけでもないのに


息が切れている


見間違いかもしれないし、


今更あったところで何になる、


あっちだって、もう恋人の1人や2人、



北斗「あなたちゃんっ、」



背中から聞こえる声を


振り払えるほどの体力は


もう残っていなかった







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