その日の夜、僕は夕食を作りながら影嶺さんから聞いた話を思い返し、考えていた。
確かに、異能者が存在しないこの世界で彼女の話を聞いていれば、あまりにも非現実的且つファンタジー的で耳を貸さない人の方が大半だろう。けど、僕は実際に影嶺さん達が異能を使う場面を見てしまったので、信じざる終えない。
異能には様々な種類があると言っていたが……異能者が喰種に手を貸せば確かに厄介なのに間違いない。捜査も手こずるだろう。
それを考えると、影嶺さん達の協力は必要かもしれない。彼女達も協力して欲しいみたいだし。
敦君は自分のせいで周りの人を危険な目に合わせてしまったと言っていたが、彼の気持ちも分からなくはない。僕も似たようなものだから。
影嶺さんの話は非現実的だ。けど、本の中に書かれる物語の一つを現実で目にしている気分でもあり、正直話を聞いていてワクワクしている自分もいた。
料理が出来たあとは皆を呼び、テーブルを囲んで食事を摂る。僕は食べれないけど。
全員揃った所で影嶺さんから聞いた話をしようかと思ったが、不知君が「そういやぁ、昼間にあった奴ら結局なんだったんだ」と先に聞いてくる。
聞いた話をありのまま全部話すと、瓜江君は予想はしていたが「はぁ?」とでも言うような表情を浮かべ、才子ちゃんは「ふぉおお!本当に異世界から!?」と、何故か目を輝かせていた。こういうの好きそうだなあ、才子ちゃん。
チラッと瓜江君の方を見ると、興味は無さそうだったが、意外にも「そうだな」と皆に同感してくれた。
不安な部分もあるが、話もまとまったので、僕は「じゃあもう夜だし、明日にでも影嶺さんに連絡するよ」と言って一人自室に戻る。
ふと、ベッドの上に置いてある服が視界に入り、僕はある事を思い出す。
その時、ある予感が脳裏を過ぎる。
僕はまさか……と思いながらも、有馬さんとのやり取りを思い出す。
影嶺さんは捜査官の一人と言っていたし、心当たりがあるとすれば……有馬さんしかいない。
異世界から来た影嶺さんは、こっちの世界に帰る場所は無い。だとすれば当然服なんかの私物もほとんどないだろう。
僕の予感があたっているとすれば、服を持って居ない影嶺さんの為に、有馬さんが僕に服を貰いに来たとなるのだろうか。
影嶺さんは女の子にしては背も高かったし、見た目や口調は少年ぽいから、僕の服を着ていても違和感は無い。
これはあくまでも僕の勝手な憶測に過ぎない。機会があれば有馬さん本人に直接聞きたいが、“あの子よく食べるみたいだから料理作って”と頼まれた平子さんに聞くべきだろうか。影嶺さんに聞いた方が早いのだろうけど、僕の服の行方まで聞くのは流石に抵抗がある。これで違ってたら尚恥ずかしい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。