第8話

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2021/02/15 09:10
『行ったら死ぬよ。其れでも、君は死にに行くのかい?』



『……あぁ』




━━━━━━━懐かしい“友”の声が聞こえた。



目を開けると、自分は廃墟の様な場所にあるソファーで寝ており、布をかけられていた。
昨日、アオギリの樹のアジトでそのまま寝てしまったのだった。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
(織田作……)
織田作こと織田作之助は、元少年暗殺者であり、マフィアの下級構成員でありながら孤児の面倒を見る“殺さずのマフィア”だった。
マフィアなのに人を殺さないとは……其れだけでも面白い男だ。
そして幹部である太宰さんの友人で、同時にまだ子供である僕の歳離れた友人且つ兄的存在だった。
マフィアの幹部と下級構成員は用が無ければ滅多に会うことは無い。マフィア首領と同じように。でも織田作とは私用でそれなりに会っていた。僕も太宰さんも。そんなある日、僕の部下の一人が呟いた。


『殺さずのマフィアにしてマフィアの何でも屋……あんな人間が太宰さんや影嶺さんと釣り合う筈が無い』


之と似た台詞を太宰さんの部下も太宰さんに言ったらしい。太宰さんは上手く言い返したみたいだけど。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
(僕からすれば、釣り合う釣り合わないの問題では無いんだけどね)
織田作が死んで太宰さんはマフィアを抜けた。
お察しの方も居るだろうが、僕は元の世界では“ポートマフィア”と呼ばれる異能犯罪組織に属している。
ヨコハマを縄張りにする凶悪マフィアであり龍頭抗争を生き残った屈強な闇組織でもある。
傘下団体も多数を抱え、政界の一部にも手を伸ばしているので軍警も迂闊に手は出せない。
ポートマフィアには首領の次に偉いとされる“五大幹部”があるのだが、太宰さんは最年少幹部で、元マフィアと敵対していた“羊”の“王”……現マフィア幹部の中原中也と組んでいた。
たったの十六歳程度の少年が二人で一夜にして巨大組織を滅ぼしたことから、裏社会では“双黒”として二人は恐れられた。しかも、作戦参謀は太宰さん。実質戦っているのは中也一人なのだから大したものだ。
太宰さんがマフィアを抜け、太宰さんの次なる最年少幹部の僕が中也の新たな相方(仮)として組まされた。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
(織田作はそんな双黒の相方と“友人”として飲みに行ってたわけだし、織田作も織田作だよね)

テーブルの上に置いてある“高槻泉”こと“エト”の書いた小説を見て僕は軽く微笑んだ。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
出来ることなら、君の書いた小説も読みたかった

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