同刻──────影嶺の住むマンションにて。
威吹の泊まっている部屋のインタホーンを押す前に鍵が開き「そろそろ来ると思っていたよ」と言いながら威吹がドアを開けた。
有馬さんも言っていたが、コイツ……本当に予知能力でもあるんじゃないかと何時も思う。
靴が一足増えている事に気付き、既に威吹以外の誰かが居るのだと察した。
中に入り、奥へ進むと、白髪の青年が椅子に座っていた。青年は俺を見るや否や、慌てて立ち上がり、「あ、威吹さんと同じく、異世界から来た中島敦と申します」と頭を下げ挨拶してくる。
カケラについては俺も話を聞いているので知っている。仲間がカケラに封印されていることも。
敦……と言ったか。
カケラに封印されていたなら、彼もまた威吹と同じ異能者なのだろうか。だとしたら、どんな異能を使うのだろう。
威吹の異能も知らないので、異能と言うものが具体的にどんなものなのか、あまり想像出来ない。異能者なのに、何故威吹はカケラにならなかったのか、元居た世界で何の仕事をしていたのか……威吹については知らないことの方が多い。
敦は自分にも手伝える役割があると知って嬉しくなったのか、顔を明るくして元気良く返事をした。なんと言うか……気弱そうではあるが、素直で良い子そうでもある。
威吹に関しては、自分の部屋へと戻ってしまった。いつもの事だが……威吹も威吹で、たまに手伝いをしてくれる時はある。ただ、アイツも料理が出来ないので、簡単な役割しか任せてない。
決して威吹が何も食べない訳では無い。むしろ、よく食べる方なので冷蔵庫が空になるのが早いのだ。本人は食べ過ぎないよう気を付けているみたいだが。
料理する準備を黙々としていると、自然に台所に沈黙が流れる。気にせずに手を動かすが、敦は何処か落ち着かない様子だった。
敦の口振りからして、敦も威吹の“頭脳”に関しては知っているようだ。まあ、同じ異世界から来た知り合いなのだから、知っていてもおかしくないだろうけれど。
料理をしながら敦と話をしていると、玄関扉の鍵がガチャと開く音が聞こえた。インタホーン無しで中に入ることが出来るとすれば、威吹以外に一人しか居ない。
自室から威吹が出ておちゃらけた風に言うと、有馬さんは否定せず「うん」と頷いた。
俺の隣では敦が「この人が有馬さん……」と呟いている。
有馬さんが敦に視線を向けると、敦はハッとしながらもう一度自己紹介をする。威吹も付け加えるように敦について有馬さんに説明する。
威吹の声音が一瞬変わり、恐らくこれから先は状況が一変するのだと察する。
だが、同時にそれは進展があったとも言えるだろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。