第16話

面倒と進展 平子side
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2021/02/16 15:45
同刻──────影嶺の住むマンションにて。
平子丈
平子丈
(一人前追加とメールできたが……誰か来るのか?いっその事作り置きしようかと多めに買ったが)
威吹の泊まっている部屋のインタホーンを押す前に鍵が開き「そろそろ来ると思っていたよ」と言いながら威吹がドアを開けた。
有馬さんも言っていたが、コイツ……本当に予知能力でもあるんじゃないかと何時も思う。
平子丈
平子丈
邪魔するぞ
影嶺 威吹
影嶺 威吹
どうぞどうぞ
靴が一足増えている事に気付き、既に威吹以外の誰かが居るのだと察した。
中に入り、奥へ進むと、白髪の青年が椅子に座っていた。青年は俺を見るや否や、慌てて立ち上がり、「あ、威吹さんと同じく、異世界から来た中島敦と申します」と頭を下げ挨拶してくる。
平子丈
平子丈
異世界から?威吹、仲間を見つけたのか
影嶺 威吹
影嶺 威吹
異世界仲間と言う意味ではそうだね。カケラに彼が封印されていた
カケラについては俺も話を聞いているので知っている。仲間がカケラに封印されていることも。
中島敦
中島敦
もしかして、威吹さんがお世話になってるのって……
影嶺 威吹
影嶺 威吹
タケさんにも色々とお世話になっているけど、また別に居るよ
中島敦
中島敦
タケさん……?
平子丈
平子丈
平子丈だ。喰種捜査官をやってる。俺は実家住まいだから、ここにはたまに来るぐらいだな。今日はその“もう一人”の人に威吹の飯を作るよう頼まれたから来た
影嶺 威吹
影嶺 威吹
僕、手持ちのお金に限りがあるからね……こっちだと仕事も無いし、僕まだ未成年だから保護者が必要になるしで……
中島敦
中島敦
養われてるんですね……
敦……と言ったか。
カケラに封印されていたなら、彼もまた威吹と同じ異能者なのだろうか。だとしたら、どんな異能を使うのだろう。
威吹の異能も知らないので、異能と言うものが具体的にどんなものなのか、あまり想像出来ない。異能者なのに、何故威吹はカケラにならなかったのか、元居た世界で何の仕事をしていたのか……威吹については知らないことの方が多い。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
さて、敦君。今晩の夕餉は咖喱だよ!僕のリクエスト!
中島敦
中島敦
咖喱……!す、すみません。平子さん。僕の分まで……な、何かお手伝いします!料理はあまりしたことがないので、得意ではありませんが
平子丈
平子丈
そうか。なら、皮むき頼む
中島敦
中島敦
分かりました!
敦は自分にも手伝える役割があると知って嬉しくなったのか、顔を明るくして元気良く返事をした。なんと言うか……気弱そうではあるが、素直で良い子そうでもある。
威吹に関しては、自分の部屋へと戻ってしまった。いつもの事だが……威吹も威吹で、たまに手伝いをしてくれる時はある。ただ、アイツも料理が出来ないので、簡単な役割しか任せてない。
平子丈
平子丈
(分かっていたが、冷蔵庫の中は空か……相変わらずだな)
決して威吹が何も食べない訳では無い。むしろ、よく食べる方なので冷蔵庫が空になるのが早いのだ。本人は食べ過ぎないよう気を付けているみたいだが。
料理する準備を黙々としていると、自然に台所に沈黙が流れる。気にせずに手を動かすが、敦は何処か落ち着かない様子だった。
中島敦
中島敦
え、えと……威吹さんとは、どうやって知り合ったんですか?
平子丈
平子丈
……上司の紹介?
中島敦
中島敦
上司?
平子丈
平子丈
威吹を拾った人のことだ。今は違うが、以前は仕事の関係でその人と組まされていた
中島敦
中島敦
そう、なんですね。けど、威吹さんのこと良く拾おうと思いましたね、その人。もしや、威吹さんと此処で暮らして……
平子丈
平子丈
いや、ここは威吹だけが住んでる。威吹の為に用意した部屋らしい
中島敦
中島敦
うわ……威吹さんもですけど、よく許可してくれましたね
平子丈
平子丈
互いに事情があるんだろう。威吹は威吹で、敵異能者から隠れるとかどうとか言っていたし……部屋を用意する間は俺の実家に居候してたぞ
中島敦
中島敦
色んな人を巻き込んでますねー威吹さん。だけど、あの人のことだから……何か考えがあるのかもしれませんが
敦の口振りからして、敦も威吹の“頭脳”に関しては知っているようだ。まあ、同じ異世界から来た知り合いなのだから、知っていてもおかしくないだろうけれど。
中島敦
中島敦
平子さんは僕達の事情を知っているみたいですけど、話を聞いた時疑ったりしなかったんですか?異能が存在しないこの世界なら、傍から見れば非現実的な話だろうし……
平子丈
平子丈
……まぁ。でも、有馬さんから威吹についての話を聞いて納得はしたし、威吹自身も嘘をついてるようには思えなかった。だから、受け入れるのは割と早かったな
中島敦
中島敦
そうだったんですね。あれ?もしかして、その“有馬さん”って人が……
料理をしながら敦と話をしていると、玄関扉の鍵がガチャと開く音が聞こえた。インタホーン無しで中に入ることが出来るとすれば、威吹以外に一人しか居ない。
有馬貴将
有馬貴将
お邪魔するよ……ん?タケと、誰?
影嶺 威吹
影嶺 威吹
おや?有馬さん、突撃訪問ですかな?
自室から威吹が出ておちゃらけた風に言うと、有馬さんは否定せず「うん」と頷いた。
俺の隣では敦が「この人が有馬さん……」と呟いている。
有馬貴将
有馬貴将
タケが威吹と電話で話してるの通りすがった時に偶然聞いたから……ご飯食べるなら俺も行こうかなって。俺もタケも、今日は仕事が早めに終わったし
平子丈
平子丈
今作り始めたばかりなので、暫く待ってて下さい。多めに買っといて丁度良かったです
有馬さんが敦に視線を向けると、敦はハッとしながらもう一度自己紹介をする。威吹も付け加えるように敦について有馬さんに説明する。
有馬貴将
有馬貴将
異世界仲間、見つけられたのか。良かったな
影嶺 威吹
影嶺 威吹
そうですね。ただ、これから更に面倒な事になりそうですが……詳しい話は食事中にでも
威吹の声音が一瞬変わり、恐らくこれから先は状況が一変するのだと察する。
だが、同時にそれは進展があったとも言えるだろう。

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