影嶺さんは無言でニコッと笑い、不知君が「もしかして、通報したのお前か!?」と聞くが、影嶺さんは「其れは違う。誰が通報したかは知らない。僕はたまたま君達が人喰い虎の話をしてたのを耳にして来ただけだ」と答えた。
次に瓜江君が聞くと、影嶺さんは「見てれば分かるさ」とだけ言って虎を見た。その直後、虎は影嶺さんに襲い掛かり、僕が助けに行こうとするが━━━━━━━━━━━━━
名前を呼ばれ、「僕を、知っているのか?」と思わず動きを止める。影嶺さんは人並みにしては予想以上の身体能力で虎の攻撃を回避する。
しかも、両手はポケットの中に入れたまま、宙に浮くかのように、高く跳んで虎の背後に立つ。
影嶺さんの動きに圧倒されていると、影嶺さんは虎に対して話し始めた。
影嶺さんはそうは言うが、壁にかかとをつけ、虎に追い込まれる。両サイドには積荷が高く重なっていて、少なくとも普通の人間なら逃げられない。だが、影嶺さんは「おや、行き止まり?」と呟く割に、余裕そうな表情を浮かべていた。
追い込まれて身動き出来なくなった影嶺さんに虎が飛び掛かろうとし、不知君達が咄嗟に「おい!」とクインケを構えるが、影嶺さんは不敵な笑みを見せ、右手を軽く上げた。
右手の人差し指は丁度飛び掛った虎の額に当てられ、次の瞬間━━━━━━━━━
影嶺さんの言葉と共に、人差し指から謎の光が虎を囲むようにして現れ、虎が僕達の真上に吹っ飛ばされた。虎の身体もが光り出すと、虎は見る見るうちに人間の青年へと姿を変える。
青年は意識を失ったまま地面へと落ちた。
僕が振り返ると、影嶺さんは左手をポケットに入れたまま笑顔でこちらへ歩く。
僕達の間を歩き、影嶺さんは倒れている青年の前に立つ。青年は恐る恐る目を開け、上半身を起こすと、影嶺さんの顔を見るや否や「う、うわああああ!?」と驚いた表情で座ったまま後ずさる。
青年はボロボロになったガレージ内を見回すと、何かを察したのか、顔を青ざめた。
僕達が話についていけず呆然と二人のやり取りを眺めていると、青年はパニック状態並に取り乱し始め、影嶺さんが「“敦”」と、低くハッキリ青年の名を呼んだ。
敦と呼ばれた青年は、落ち着きを取り戻すと、片手に何かを握って居るのに気付いて手を開いた。掌にはひし形で透き通った透明色の小さなカケラが乗っていた。
影嶺さんは振り返ると、僕達を見て「すまなかったね。怪我は無かったかい?」と先程の笑顔を見せた。
影嶺さんと敦君は僕達と一緒に喰種対策局まで行ってくれるみたいだが、影嶺さんはまるで僕が彼等を引き止めると分かっていたような口振りだった。まあ、あんな光景を見せられて、逆にここで引き止めないのもどうかとは思うが。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。