圧倒されるような視線に怖気付いて後ずさると、
ドレスの裾に足が引っかかって靴が脱げてしまう。
すると彼は床に片膝をついて屈み、
脱げた私のパンプスを捨った。
彼はその体勢のまま
私の右足に丁寧な動作で靴を履かせてくれて。
再び立ち上がった彼はやはり相当な高身長で、
喉元まで出かかった言葉も飲み込んでしまう。
彼の目線に押し潰されかけていると
どこからか聞き覚えのある声がした。
革靴の音を響かせながら
つかつかとこちらに歩いてくる大公。
見知った人に出会えた私は
安堵からほっと胸を撫で下ろした。
大公は口元に手をやって短く笑うと、
ずっと無言のままでいる男性の肩を叩いて。
"ナムジュン" と呼ばれた彼は、
ニコリとはしないけれど
心做しか先程より柔らかい表情になった。
ナムジュンさんは大公よりも背が高くて、
夜闇を湛えたような真っ黒い瞳をしている。
落ち着いて見てみると、案外怖くはなかった。
…いや、でもずっと無言なのは怖い。
さっき少しだけ話してくれたのに……
ナムジュンさんは何だかよく分からない人だった。
悪い人では無いことは確かだけれど、
大公の護衛をしているくらいなら
かなり剣技の腕が立つのだろうか。
摩訶不思議な彼について勝手に推測していると、
人混みを無理やり掻き分けて
こちらに向かってくる人の姿が視界に映った。
「ユンギ様」と呼び返すよりも先に
彼は私を思い切り抱き締めてきて。
頭にキスしてからやっと離してくれたユンギ様は、
すぐそこで何とも言えない顔をしている
大公とナムジュンさんを見やった。
大公からやんわりと説教されるユンギ様の
眉を顰めて少々拗ねた様子の顔が、
何だかいつもより幼くて可愛らしかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!