ユンギ様は "公爵" なだけあって、
やはり様々な貴族たちから声を掛けられていた。
しかし彼がまともに相手をしたのは
先程のハン先生くらいで、
それ以外は適当に握手や会釈で済ませてしまう。
私のことを詮索しようとする貴族に対しては、
地を這うような重低音の声で圧をかけたりもした。
見ているこちらの背筋が凍りつくような、
そんな血も涙もない眼差しで。
ユンギ様が一人の男爵と話していると、
不意に後ろから髪を引っ張られた。
急な痛みに困惑して後ろを見回すと、
すぐそばに一人の貴婦人が立っていて。
どうやら彼女が持っていた扇子の飾りに
私の髪が絡まってしまったようだ。
貴婦人が慌てふためいていると、
彼女のお付きの男性が丁寧に解いてくれた。
一瞬誰かにわざと引っ張られたのかと思ったが、
彼女はとても優しい目をした麗人で。
どこか私のお母様にも似ていた。
その言葉に頷くと、彼女は眉を下げて困り顔をする。
貴婦人が不安げに私の髪に触れるので、
何だかじんわりと暖かく感じた。
私の答えに彼女はにっこりと微笑んで、
頭を優しく撫でてくれる。
貴婦人は優雅に会釈をしてから
お付きの男性と広間の奥の方へ行ってしまった。
ゆったりと歩く後ろ姿すら美しく、
長い黒髪が儚げに揺れている。
本当に、お母様にそっくりだ。
見とれるようなため息をついて、
私は後ろを振り向いた。
彼の姿がどこにも見当たらない
そこら中にいる紳士たちの中で
一際目立つはずの彼がいなかった。
「離れるな」
そう言われていたのに、
あの女性と話しているうちにはぐれてしまった。
周囲を知らない人々に囲まれて、
途端に不安が襲い来る。
両手をぎゅっと握り合わせて
彼を見つけるために一歩下がると、
そのまま人の波に押されて
どんどん入り口付近まで戻されてしまった。
先程まで気にならなかったはずの視線も
ズキズキと刺さるように痛く感じて、
不安と焦燥で大きな恐怖が迫り上がってくる。
挙動不審な様子でキョロキョロと
大広間を見回していると、
ドンッと背の高い男性と正面衝突してしまった。
それまでの恐怖も相まって、
完全に動揺しきった私はほぼ涙目でそう呟く。
威圧的な真顔の彼は腰に剣を携えており、
その柄に手を乗せていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。