僕は肩に下げていたショルダーバッグから君の写真を取り出す。
相変わらずのボロボロさではあるが、君の顔が写っている部分はもちろん綺麗なままだ。
ますます僕が不審に思われたような気がする。
そう言われてみれば、あの子はなぜ突然僕の前からいなくなってしまったんだろう。
僕は必死に記憶の中の君について思い出そうと試みる。
君が好きだった花。
君が好きだった動物。
君が憧れていた………世界。
どうしてだろう。
君が好きだったもの、望んでいたものしか頭には浮かんでこないや。
君との楽しかった記憶、嬉しかった記憶、悲しかった記憶………君がいなくなった理由。
その全てが思い出せないんだ。
頭を抱えうつむく僕は、次第に山田くんの声さえも耳には届かなくなっていった。
自分の手に覆われた暗い闇の中で僕は意識が遠のいていくのを感じた。
最後に聴いたのは、僕の名前を必死に呼ぶ涼介の声だった――――。
思えば僕はこの十八年間、ずっと君の面影だけをただ追って探して、君があの町へ帰ってくる事だけをただ待ち望んで生きてきた。
何度か別の女の子から好意を寄せられた事もあったけど、その度に僕は思っていた。
それが君だったらいいのに、と。
………なんて、僕のないものねだりに過ぎないけど。
そう言えば最近あまり寝ていなかったな。
別に不眠症と呼ばれるような病的な理由ではないと思うけど。
なんてそんなことを夢の中で思い巡らせていた僕の意識は次第に現実へと引き戻されていった。
目を覚ますとそこは、先程まで僕が腰かけていたソファの上だった。
山田くんいわく、僕は突然前のめりに倒れたかと思えばそのまま眠ってしまっていたらしい。
そう告げると山田くんは深いため息をこぼしながら「お前なぁ……」と頭を抱えた。
山田くんのその言葉に僕は絶句した。
確かにそうだ。僕がこんなことになっていては、もし君に会えたとしても………。
返す言葉が見つからない僕の背中を少し強く叩いた山田くんは、再びタバコを口に咥えながら言った。
正直お互いの両親の仲と言われると言葉が詰まる。そこまで把握はしていないから。
かすかに残っている記憶を頼るとすれば、仲は悪くもないように思える。
目を輝かせた僕を見て、山田くんは鼻で少しだけ笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!