僕らが案内されたそこは、広々とした畳の部屋だった。きっと僕の家にあったあの部屋よりもずっと広い。
だが、広さの反面。
扉の閉められた仏壇、虎の描かれた掛け軸。そして3つほど綺麗に並べられた高そうな壺しかない何とも殺風景な部屋だった。
その真ん中に置かれた木のテーブルを囲むように僕らと叔母は腰を下ろした。部屋の中にはほんのりと線香の香りが充満しており、僕の鼻をツンと刺激した。
僕は思わず狐に摘まれたような表情で顔を見上げた。そこには白けた瞳で僕らを一点に見つめる叔母の姿があった。
背中を冷たい汗が流れ行く中、僕は恐る恐る訊ねた。全身に緊張が走る僕の身体は小さく震えている。
なんとなく予想していた結末を思い巡らせながらも僕は喉を鳴らした。
隣に座る山田くんも何となく察したのか、顔をうつむかせた。その膝に置かれた拳を強く強く握り締め、血が滲むのではないかと言うほどに唇を噛み締めながら。
その顔色は、まるで叔母の口から聞かされる言葉を既に察しているようだった。
黙り込んでいた叔母の重たい口がようやく開いた。
もう一度喉を鳴らしながら、僕はただじっと彼女の目を見つめる。
勿体ぶっていないで早く教えてくれ。
もしも良い話だと言うのなら、僕は喜んでその言葉を発するだろうが、あいにくそのような自信はどこにもありはしなかった。
人は、あまりにも衝撃的な事を耳にするとそれを理解するまでにしばしば言葉どころか思考さえも失ってしまう。バッテリーの切れた機械のようにピタリと。
今の僕自身がその状態だった。いまいち彼女の発した言葉が理解出来ていない僕は、ぼんやりと空中を眺めながら電池の切れた思考をゆっくりと回転させる。
あなたが死んだ。
では、叔母さんが口にしたあなたとは一体誰?……猫俣あなた。そう、それは僕が12年間ずっと一途に思い続けてきたあのあなた。
散らばったパズルのピースが一つ一つ合わさって行くようにはっきりと理解できてしまった。
そう、あなたは死んでしまっていたと言うのだ。嵐のように激しく動揺する気持ちを無理矢理押し込みながら、僕は君の名前をそっと呟いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。