兄さんが仕事で静岡から帰ってきた際、婚約者として連れてきたのは、ロシア人のメアリーさん。後にあなたの母親になる人ね。
彼女は当時20代前半で、私よりも3つくらい歳が下だったわ。ぱっちりと開いた綺麗な二重まぶたに、色素の薄い灰色の瞳。外国人特有の高い鼻に、人形のような色白の肌。
そして、モデルのようにほっそりとしたスタイルの良い体つき。一目で兄さんの好みの女性だと分かったわ。
だって、メアリーさんたら本当に美人だったんだもの。
お父さんもお母さんも驚いてはいたけど「お前の好きにすればいいさ」と言って2人の結婚を認めた。でも私は国際結婚なんて断固反対だったの。
だって、文化も何もかもが違うあの女と上手くいくわけがないじゃない。なのに、兄さんったら――。
「そんなのして見なきゃ分からないだろ」
なんて、私の心配をまるで馬鹿にするかのように軽くあしらったのよ?
ショックだった私は、“きっと兄さんはあの女の美しさに魅了され、正常心を失っているんだ”と思い込む事にしたの。だってその方が気楽じゃない。
……まぁ、それはエゴでしかないと言われてしまえばそれまでなんだけどね。
それからずっと私は、兄さんの心を虜にして惑わせるあの女が許せなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。