どうやらバス内に備えられているはずの暖房が壊れてしまったらしく、車内は春とはいえかなりの寒さで凍えそうだった。
ジャージが大好きで、今もジャージ姿でバスに揺られている山田くんなんかはとてもじゃないけど見ていられないくらい寒そうだ。
僕はまだマフラーと薄めのコートを着てきているからいいものの。
やだよ!
よこせ!
と言って揉め合う僕ら。
何故か僕ら2人以外乗ってる人は誰もいなかった。
と言っても僕の住んでる街とさほど変わりはないと思うのは僕だけだろうか。
なんとなく共感を求めたくて隣の山田くんに目をやると、彼は昨日に懲りずにスマホでなにやらアニメを見始めていた。
山田くんに下手な事を突っ込むのは諦め、日の出町の平井にあるという八坂神社までの距離をグーグルで再び検索する。
うーん……これを見ても後どれくらいなのかいまいち分からない。
バスが停車した時、タイミングを見計らって運転手さんに聞いてみたものの、まだ少し先のようらしい。
いくら時間があろうと泊まるところがなければ結局は意味がない。
例えあったとしてもずっとビジネスホテルなんかに泊まっていたら泊まり賃だけでお金が消えていってしまい、僕の貯金だけではもうどうにもならなくなってしまう。
そう言って山田くんが差し出したのは、厚みのある茶封筒だった。
恐る恐る中を開いてみると、そこには思わず声が押し黙るほどの札束。これだけの厚さなら30万は確実にあるだろう。
それにしても……
まさか実の息子である僕よりも、母さんにとっては見ず知らずである山田くんの方が信用できるという事なのだろうか。
………それはそれで心が痛むなぁ。
……にしてもなぜこんなにたくさん。
いくら探偵とは言え、僕と同じ未成年だ。まだ成人式すら迎えていない彼にここまでする必要があるか?
母さんはあなたの両親が亡くなってから、あなたをまるで自分の子供のように可愛がっていた。
言うなら僕よりもずっとあなたに愛情を注いでいたと思う。
別に嫉妬なんて一ミリもしてはいなかった。
6歳だったけど、それなりにあなたの心の傷というのを理解していたと思うから。
両親を失ったあの子に必要なのはきっと、他のどんな薬ではなくて“愛情”だったんだろうと、今の僕ならぼんやりと理解ができた。
だからもし……もしも再会できた時、あなたが愛情を求めていたら。
今度は僕がうんとあなたを支えて愛をあげるんだと僕は心に決めている。
だから……だから、待っててねあなた。
必ず会いに行くからね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。