僕たちは電車に乗り、2つ駅を越え僕の住む街へとたどり着いた。
僕の街は、山田くんが住んでいる所とは全く真逆の、多くの住宅が建ち並ぶ住宅街だ。
とはいえ、ドラマなんかでたまに舞台になるあんな真新しく綺麗な町並みではなく、国民的アニメなどでよく見られる昔ながらと言った言葉がよく似合うような所だけど。
山田くんは眠たげな目を擦りながらつぶやいた。
そう言えばこの人、電車の中でずっと居眠りしていたような気がする。服装も、本人曰く一応着替えたらしいが、もちろんそれもジャージだった。
………本当に探偵なんだよね、この人。
僕らが街に着いた頃にはもう時刻は夕方の五時を回っていた。
街も夕日のオレンジ色に染められて、綺麗で神秘的な眺めを僕ら人間に提供しているようだった。
普段はあまり出歩かないのか、山田くんの口からはもうすでに文句しか聞いていない気がする。
これじゃあこの先が思いやられるなぁ、と心の中でため息をついた。
駅から三十分歩いた僕らはようやく僕の家へとたどり着いた。“ようやく”はきっと僕ではなく隣でうなる彼の思いだろうけど。
建築されて、まだ20年も経っていない一軒家。外壁は母さん好みの白で薄めたベージュの色を主に使っており、その屋根は茶色い瓦式だ。
表札は父さんが不要だといい付けてはいない。
なんて馬鹿げた突っ込みを入れ、僕はインターホンを鳴らした。
合鍵を持っていればインターホンなど押さずに中へ入れるのだけど、紛失の事を考えた母さんが持たせてくれないのだ。
普段友達などを家には連れてこないためか、母さんは目を見開き驚く。
僕にだって友達の一人二人はいるさ。なんて心の中でつぶやきながらも「うん」と答えた。
母さんの耳に入らないよう僕に耳打ちをする。
山田くんが発したあの子の名前。
母さんの耳にもそれが入ったのか、突然歩みを止めて振り返った。
その表情は、まるで“般若”のように酷く怒りを露わにしているようだった――――。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。