『 いや!やめてッ…!ごめんなさいッ…! 』
あなたの家は昔から複雑だった
お父さんとお母さんの仲が悪く
お父さんは殆ど家には帰ってこなかった
お母さんは夜の仕事をしていて
その疲れと苛立ちを全てあなたにぶつけていた
飯綱:あなた,けがしたの?いたくない?
あなた:うん,ころんじゃったの!へいきだよ!
小さい頃からたまにあなたは痣を作ってきた
本人はずっと" 転んだ "と言い張っていて
小さかった俺はそれをずっと鵜呑みにしていた
だけど大きくなるにつれて気が付いた
その痣は______あなたのお母さんが作ったものだと
あなた:またあしたね!
飯綱:きょうもおうちでひとりなの?
あなた:うん,だけどへいきだよ!ひとりでおるすばんできるもん!
お母さんは夜の仕事,お父さんは殆ど帰らない事から
あなたは昔から夜は一人で家にいた
お母さんがあなたの為に夕飯を作っていく事は無い
だからあなたは毎日夜ご飯は食べなかった
ピンポーン
俺はたまにお母さんに頼んで
俺の家の夕飯のおかずをあなたの家に届けた
飯綱:あなた,おれだよ。つかさだよ
あなた:つかさくん……?
あなたはこうやって名前を言わないと家から出てこない
家から出てきたあなたはまさに寝起きだった
飯綱:ねてたの?
あなた:うん……もうねようとおもって……
飯綱:ごはん,おかあさんがくれたからいっしょにたべよ
あなた:え……いいの……?
栄養が足りていなかったあなたは本当に小さかった
あなたは俺の事を見上げながら不安そうに眉を下げていた
飯綱:どうぞ,めしあがれ
あなた:いただきます……!
持ってきた物を広げると
あなたは目をキラキラさせて食べ始めた
やはりお腹は空いていたのだろう
嬉しそうに食べるあなたを見て俺も嬉しかった
飯綱:じゃあ,またあしたね
あなた:うん,ごはんありがとう…!
飯綱:いいんだよ,じゃあね!
俺は扉を閉めようとした
その時見えたあなたの顔はやけに寂しそうだった
当たり前だ。寂しくないはずがない
毎日家で一人なんて____絶対に寂しい
飯綱:あなた
あなた:………?
飯綱:あしたすぐにむかえにくるからまってろよ!
あなた:……!うん……!
俺があなたにそう言って頭を撫でると
あなたは嬉しそうに微笑みながら頷いた
これが______小学生の頃の話。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。