『 可愛ええ。』
侑くんはあたしを見ながらそう言ってくれた
心の声が漏れてしまったのか
言った後に侑くんは慌てて自分の口を塞いでいた
素直に思った事だったのだろうか
" 可愛い "と言われたことが素直に嬉しかった
銀島:すんごい人やな
結月:な!あなたはぐれんといてな?
あなた:大丈夫だよ!
あたし達は花火が始まる前に屋台を見に行った
通路はすごい人で埋まっていた
侑くん,大丈夫かな______?
侑:?どないした?
あなた:え……!!
ふと侑くんを見ると目が合ってしまった
侑くんもあたしを見ているとは思わなくて
あたしは思わず慌ててしまった
あなた:あ,えっと……侑くんこういう人混み嫌いじゃないのかなって
侑:?嫌いやで
あなた:え!?
侑:現にほんま鬱陶しくてしゃーないわ
そう言う侑くんは本当に鬱陶しそうな顔をしていた
人混みが嫌いなのにどうして____?
侑:でも,あなたの浴衣が見たかったから
あなた:え?
侑:今日俺は花火やなくてあなたの浴衣を見に来たんやで?
あなた:ッ!?
侑くんは笑いながらそう言った
あたしの浴衣を見に来たの______?
侑:期待通りむっちゃ可愛いくてびびったわ
あなた:え……?
侑:その髪型も,いつもと違って可愛ええ
あなた:……!!
可愛いの連発にあたしは恥ずかしくなってしまった
侑くんってこういう事言う人だっけ____?
あなた:あ,あんまり褒めないで……!
侑:何でや?ほんまのこと言うただけやけど?
あなた:だとしても恥ずかしいから……!!
侑:恥ずかしがっとんの?可愛ええな
あなた:〜ッ!!
今のはわざとだ
侑くんは意地悪そうに笑いながらあたしを見ていた
ドンッ
あなた:きゃッ……!
よそ見をしていたらすれ違った人とぶつかった
履き慣れない下駄,着慣れない浴衣に
あたしは体制を崩してしまった
『 平気か? 』
侑:怪我ないか?
あなた:あ,うん,大丈夫……
侑:悪い。ちと意地悪しすぎたわ
侑くんはあたしの身体を支えながら
申し訳なさそうに眉を下げた
侑:ん
あなた:え?
侑:はぐれたらあかんやろ?掴んどき
そう言って差し伸べられた侑くんの手
あたしは______握っていいのかわからなかった
侑:……現にもう彼奴らとはぐれとるから
あなた:え!?
そう言われて当たりを見渡すと
結月の姿も銀島くんの姿ももう何処にも見えなかった
侑:やから繋いどきや
あなた:………
あたしはゆっくりと侑くんの手を握った
侑くんはしっかりと____手を握り直してくれた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!