「ゔっ…スゥ…」
嗚咽を漏らしながら寝る彼女。
そっと彼女の髪を撫でる。
「髪は…変わらず綺麗だね」
泣き腫らして惨めになった顔。
黒く濁ってしまった瞳。
__________髪だけはまだ綺麗だった。
彼女の髪をどけて、彼女の寝顔を見る。
「あの時と…変わってしまったね」
彼女の寝顔は、
初めて俺が彼女の寝顔を見た時と違い、
苦しい表情を浮かべ酷く怯えていた。
あの時は幸せそうな表情をして寝てたのに。
思えば、最初は彼女の方が俺に溺愛していた。
「遊くんっ」と俺の名前を呼び、
俺の後ろをいつも付いてきてた。
でも、だんだんと彼女のその行為が減ってきて、
今度は俺が彼女の後ろを付いていくようになった。
だんだんと俺の行為はエスカレートして行き、
今に至る。
__________それでも、これは愛だから。
きっと、彼女も分かってくれる。
そう言えばいつから彼女の名前を呼んでないのだろう。
自分の心の中では、彼女と呼び、
彼女の前では君と呼ぶ。
「ー…っ」
彼女の名前を呼ぼうとしたけど呼べなかった。
__________名前を呼ぶのが怖い。
名前を呼んだら、
自分のしてる行為に気づいてしまいそうになるから。
………大丈夫、これは愛だから。
愛だから、愛の印だから、
きっと彼女もいつかは気づいてくれる。
これは、おかしい事じゃない。
そう自分に言い聞かせる。
「もう、寝るね」
時計を見るともう2時を過ぎていた。
明日はご飯をあげよう。
このままだと彼女は死んでしまう。
彼女が死を迎える時が来たら、
俺は彼女の後を付いていくだろう。
死んでも一緒だね。
朝が来たら、
またたくさんの愛を彼女に捧げよう。
俺は彼女の手と足をロープで縛り、
真っ暗な部屋をあとにした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。