藍が
またこの町からいなくなってから
何年が経ったかな__________
店には
知らない人がいる
どういうわけか
大和はフランボワーズに戻らず
ずっとつつじで働いていたが、
春からは本社に異動するそう
私もあのあと
なんとなく
フランボワーズも
つつじからも離れて
お母さんの手伝いをして暮らした
でも
春から東京で暮らす
壱子は空になったおかゆの鍋を机に置いて
乾いた冷えピタを剥がした
壱子はそっと自分の唇に触れた
壱子が感じた
違和感
紅葉は椅子に腰を掛けた
少し開けた窓から優しい風が吹く
壱子は照れたような顔で紅葉の前に座った
紅葉が差し出したのは
一冊の週刊誌
前に表紙だけ見たことがある
母の言葉に心が揺れた
壱子はためらいなく手を伸ばして
ページをめくった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!