帰り道。日は完全に落ちきって辺りには電灯の弱々しい光しか無かった。
そんな頼りない光の中私たち2人は手を繋いで歩いていた。
右手と左手。時折ブレスレットがぶつかる乾いた金属音が響く。
『…寒いね。』
ね「ん…」
沈黙を破った私はそう言って鼻をすする。そして冷える末端を温めるための提案をした。
『ねぇ…コンビニ行こ。肉まん奢ってよー』
そう言ってねぎくんが着せてくれた紺のコートのポケットに右手を突っ込む。
手を繋いでいるので当然ねぎくんの手ごと一緒に。
より一層距離は縮まる。
ね「いや…ごめん……財布…忘れた」
ねぎくんは気まずそうに私から目を反らした。
私はそのねぎくんのその行動にむぅっと頬を膨らませる。
『じゃー自分の分だけ買ってこよー』
繋いでいた手を解いて私は走り出す。
ね「え、ヘロインちゃん?俺の分はぁ?」
私に手を解かれ立ち尽くしているねぎくんはそんな情けない声を出す。
私は振り返って悪戯じみた笑みを浮かべる。髪の毛がふわりと揺れ、私の鼻を擽る。
『ねぎくんが私を捕まえられたら奢ってあげる。』
少し崩れた髪の毛を耳に掛け、私は夜の闇の中を走り出す。
ねぎくんもそれに続き私を追いかけにくる。
楽しげに追いかけっこをする私達はまだまだ子供なのだろうか。
はたまた子供を羨むただの大人なのだろうか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!