この日のハリー・ポッターは、紫陽花の茂みの陰に隠されて、道往く人の目には全く見えないだろう。もし見つかるとすれば、バーノン叔父さんとペチュニア叔母さんが居間の窓から顔を突き出し、真下の花壇を見下ろした場合だけだ。
いろいろ考えると、ここに隠れるというアイデアは我ながら天晴れとハリーは思った。熱い固い地面に寝転がるのは、確かにあまり快適とはいえないが、ここなら、睨みつける誰かさんも、ニュースが聞こえなくなるほどの音で歯噛みしたり、意地悪な質問をぶつけてくる誰かさんもいない。なにしろ、叔父さん、叔母さんと一緒に居間でテレビを見ようとすると、必ずそういうことになるのだ。
ペチュニア叔母さんは、どうでも良いという口調だ。
バーノン叔父さんが、ウーッと唸った。
叔父さんが痛烈に嘲った。
ペチュニア叔母さんの声だ。
ダーズリー家は静かになった。
朝食用のシリアル「フルーツ・ン・ブラン」印のコマーシャルソングを聞きながら、ハリーは、フィッグばあさんがひょっこり、ひょっこり通り過ぎるのを眺めていた。ミセス・フィッグは近くのウィステリア通りに住む、猫好きで変わり者の変人のばあさんだ。独りで顔をしかめ、ブツブツ呟いている。
ハリーは、茂みの陰に隠れていて本当に良かったと思った。フィッグばあさんは最近、ハリーに道で会うたびに、しつこく夕食に誘うのだ。
ばあさんが角を曲がり姿が見えなくなったとき、バーノン叔父さんの声が再び窓から流れてきた。
ペチュニア叔母さんが愛しげに言った。
ハリーは吹き出したいのをぐっと堪えた。
ダーズリー夫妻は息子のダドリーのことになると、呆れるほど親バカだ。この夏休みの間、ダドリー軍団の仲間に夜な夜な食事に招かれているという嘘を、この親は丸呑みにしてきた。
ハリーはちゃんと知っていた。
毎晩、ワルガキどもと一緒になって公園で物を壊し、街角でタバコを吸い、通りがかりの車や子供たちに石をぶつけいているだけだ。ハリーは夕方、リトル・ウィンジングを歩き回っているときに、そういう現場を目撃している。
休みに入ってから毎日のように、ハリーは通りをぶらぶら歩いて、道端のゴミ箱から新聞を漁っていたのだ。
アンケート
長い?
長い!もっと短くして!
17%
ちょうどいいよー
75%
短い、もっと長く
8%
投票数: 12票
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。