前の話
一覧へ
次の話

第1話

一桁の成績
234
2018/01/22 12:16
私は、いつも成績が悪かった。
テストの度に母親や塾の先生にまで怒られる。
この前の点検テストでも、398点という点数を取ってしまった。順位は160人中23位。

「なんであんたはいつもこんな点数しか取れないの!また塾を増やそうかしら…」

「ちょっと、これ以上塾を増やしたら、部活が…」

「部活どころじゃないでしょ!」

私は合唱部に入っていた。毎日練習があるので、どうしても勉強の時間は削られていた。それでも、私にとっては、勉強しなくていい楽園だったのに…

今だって毎日塾に通っている。本当は余計に疲れて、勉強どころじゃなくなるのになー。

私の思いとは相反して、母の説教は1時間も続いた。

「今度またこんな点数とったら、家から追い出すからね!次こそ、ちゃんと一桁入れるようにしてよ!」

バタンッ

ふぅ。疲れたー。23位から一桁なんて無理だよ…

母は、女手一つで私を育て上げた。幸い、母は医者だったので、お金に苦しいというほどではなかった。でも、その母の功績のせいで、母は私にも同じ道を歩ませようと必死だ。

なんてったって、東大医学部のトップだったのだ。しかし、その遺伝子を受け継いでいるとはいえ、私が医学部に入りたいわけでもないのに、成績に対して神経質過ぎる。

「いつかお母さんを追い越す」

小学生のころはそれが私の目標だった。
憧れの母に追いつくだけでなく、追い越したかった。しかし、難関中学と言われる学校に入学してから、私は限界を知った。私より優れている人は山ほどいる。

「お母さんを追い越す」かぁ…

私は、一生懸命努力した。「お母さんを追い越す」ために。次のテストで、一桁を、目指そう。

一ヶ月後、とうとうテスト当日だ。
今までの問題を見直して、問題形式を把握してきた。大丈夫。

私は全力で試験に挑んだ。

一週間後、テストが返却され、総合順位が発表された。私はやり遂げた。一桁をとったのだ。

家に帰り、私はテスト結果を母に見せた。
テスト結果をもつ母の手は震え、
顔は紅潮していた。

「なんなの!?この成績は!」

母が見せつけたテスト結果には、国語2点、数学2点、理科2点、社会2点、英語1点、総合点数は9点だった。それは、私が必死に問題配点や、部分点などを調べ上げた結果だった。

「こんな子に育てた覚えはありません!
約束通り、出て行きなさい!」

「私は、ちゃんと約束を守ったでしょう?ちゃんと、点数は全部一桁だよ。」

母はあっけにとられすぎて、言葉が出ないようだった。

「私は医学部に行く気はありません。
あなたと同じ道を歩む実力もなければ、気持ちもありません。」

「今まで育ててきてやった恩を…っ!」

「お父さんの実家へ行きます、今までありがとうございました。」

まとめて置いた荷物を持ち、私は玄関の外へと出た。静寂の夜に背後からかすかに唸り声が聞こえた気がしたが、私は決して振り返らなかった。

プリ小説オーディオドラマ