前の話
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私は、いつも成績が悪かった。
テストの度に母親や塾の先生にまで怒られる。
この前の点検テストでも、398点という点数を取ってしまった。順位は160人中23位。
「なんであんたはいつもこんな点数しか取れないの!また塾を増やそうかしら…」
「ちょっと、これ以上塾を増やしたら、部活が…」
「部活どころじゃないでしょ!」
私は合唱部に入っていた。毎日練習があるので、どうしても勉強の時間は削られていた。それでも、私にとっては、勉強しなくていい楽園だったのに…
今だって毎日塾に通っている。本当は余計に疲れて、勉強どころじゃなくなるのになー。
私の思いとは相反して、母の説教は1時間も続いた。
「今度またこんな点数とったら、家から追い出すからね!次こそ、ちゃんと一桁入れるようにしてよ!」
バタンッ
ふぅ。疲れたー。23位から一桁なんて無理だよ…
母は、女手一つで私を育て上げた。幸い、母は医者だったので、お金に苦しいというほどではなかった。でも、その母の功績のせいで、母は私にも同じ道を歩ませようと必死だ。
なんてったって、東大医学部のトップだったのだ。しかし、その遺伝子を受け継いでいるとはいえ、私が医学部に入りたいわけでもないのに、成績に対して神経質過ぎる。
「いつかお母さんを追い越す」
小学生のころはそれが私の目標だった。
憧れの母に追いつくだけでなく、追い越したかった。しかし、難関中学と言われる学校に入学してから、私は限界を知った。私より優れている人は山ほどいる。
「お母さんを追い越す」かぁ…
私は、一生懸命努力した。「お母さんを追い越す」ために。次のテストで、一桁を、目指そう。
一ヶ月後、とうとうテスト当日だ。
今までの問題を見直して、問題形式を把握してきた。大丈夫。
私は全力で試験に挑んだ。
一週間後、テストが返却され、総合順位が発表された。私はやり遂げた。一桁をとったのだ。
家に帰り、私はテスト結果を母に見せた。
テスト結果をもつ母の手は震え、
顔は紅潮していた。
「なんなの!?この成績は!」
母が見せつけたテスト結果には、国語2点、数学2点、理科2点、社会2点、英語1点、総合点数は9点だった。それは、私が必死に問題配点や、部分点などを調べ上げた結果だった。
「こんな子に育てた覚えはありません!
約束通り、出て行きなさい!」
「私は、ちゃんと約束を守ったでしょう?ちゃんと、点数は全部一桁だよ。」
母はあっけにとられすぎて、言葉が出ないようだった。
「私は医学部に行く気はありません。
あなたと同じ道を歩む実力もなければ、気持ちもありません。」
「今まで育ててきてやった恩を…っ!」
「お父さんの実家へ行きます、今までありがとうございました。」
まとめて置いた荷物を持ち、私は玄関の外へと出た。静寂の夜に背後からかすかに唸り声が聞こえた気がしたが、私は決して振り返らなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。