天子は叫びながら青葉の前に走ってきた。
青葉はベッドの上で
あぐらをかきながらてんこを見た。
美空は天子の後に部屋に入ると
ゆっくり発音し、口の形をはっきり見せた。
天子は、ヒジを曲げて
踏ん張るように声を発した。
青葉は意地悪そうな口調で
天子を揶揄った。
天子は青葉の上に飛び乗り
小さな手でバタバタと青葉を叩いた。
青葉は天子の手をキュッと抑え、
ぬいぐるみのように隣に座らせた。
美空はポツリと言った。
青葉はクスッと笑った。
美空は天子の頭を撫でた。
青葉が呟いた言葉を
美空は聞き逃さなかった。
──
そして……
いつか
私の担当に……なってね。
もうすぐ夏の匂いがする。
いつもと変わらない
そんな日だった──。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!