小畑さんのその言葉を聞くのは初めてじゃなかったけど……毎回自分のことのように嬉しくなる。
高校生になった私は、
近所の図書館などで読み聞かせの
ボランティアをしている。
小畑さんは、司書の優しいおばあちゃん。
人付き合いは苦手。
所詮他人は他人。
これ、私が17年間生きてきた教訓?
相手が喜ぶ言葉とか、
悲しむ言葉とか……
考えても私にはわからない。
周りの人の言葉だって、
大体はテキトーで
信じられないことばかり。
でも、姉ちゃんの絵本は
姉ちゃんが残した言葉だけは、
本当の言葉で……
その音に触れるだけで温かい気持ちになれた。
私には姉ちゃんみたいな才能はないけど、
姉ちゃんの言葉を届けることはできるから……
きっかけは、近所の人に頼まれたことだったけど、こうして読み聞かせのボランティアは、なんだかんだ続いてる。
私は、絵本を本棚にしまう手を止めた。
小畑さんからチラシのような紙を受け取った。
──サクライロ出版
姉ちゃんのとこだ……。
それに──
私は、棚に並んだ絵本を見つめて
そっと指でなぞった。
──カッパの「あお」と、カッパの「てん」
その兄弟のことを、みんなは知らない。
アイツ、いるかな──。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。