天子は、美空の前に走っていくと、
両手を広げて見せる。
広げた袖はまるでおばけのように
ダランと垂れた。
青葉の家は小さな商店だった。
美空は、机に目を戻すと
また色鉛筆を動かしはじめた。
──美空姉ちゃんは、私の憧れ。
青葉と天子は、邪魔をするように
美空の顔を覗き込んだ。
耐えられず笑い出す。
青葉は両手を上げて
ベッドに背中から倒れ込んだ。
天子も真似をしてベッドにダイブする。
天子は見事に青葉の上に飛び乗った。
青葉は上体を起こすと、
上に飛んできた天子を抱き上げ、
隣にひょこんと座らせた。
──
霞の空の下で、
カーテンがふわりと揺れた。
色鉛筆の動きが止まる。
青葉は、カバっとベッドから立ち上がり、
美空に向かって右手を差し出した。
天子も立ち上がって、青葉の真似をする。
──美空姉ちゃんの
控えめな笑顔。
美空は、真剣な顔で
小さな手を握った。
美空は微笑みながら、
天子を後ろからぎゅーっと抱きしめて
愛おしそうに頭をくっつけた。
──美空姉ちゃんの香りは、
優しい春の匂いだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。