翔side.
「一ノ瀬くんが、私の分の学級日誌書いておいてくれてたんです…だから、お礼を言ってただけです」
……あなたにとってはそれだけのつもりだろうけど、きっと一ノ瀬遊佐にとっては大きな出来事があったんだろう。
「本当に?」
俺が念を押すと、
あなたは「本当ですっ」と強く頷いた。
「ん、分かった」
俺がそう言うとあなたは安心したような顔をした。
一ノ瀬遊佐が教室を出ていく時に呟いた『彼氏待ちは興味なかったはずなのに』という言葉。
その言葉を発した時、俺のことをみてニヤリと笑った気がした。
……しばらくあなたを一ノ瀬遊佐の近くには置いておけないな。
「あなた、帰ろっか」
「あっ…私生徒会長に謝ってこないと…」
生徒会長……梓か。
梓は別に気にしてないようだったし、
俺が説明しておいたから大丈夫だと思う。
「あぁ、その件は大丈夫、ちゃんと話しておいたから」
「ありがとうございます…っ」
「あと、これ。届けに行かないとだよね?」
俺はあなたの持ってる学級日誌をひょいっと取る。
「あっ…そうでしたっ」
学級日誌をパラパラとめくり、
一ノ瀬遊佐が書いたページを見る。
今日は……6月…だから、これか。
その日のページには、
担当はあなたと書かれているけど、
あなたの字には見えないだいぶ汚い字で書いてあった。
あなたの字とは大違い…。
思わず軽く笑ってしまう。
「……?翔先輩?」
「ごめん何でもないっ、行こっか」
俺が歩き出すとあなたも小走りでついてきた。
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一ノ瀬遊佐side.
『……遊佐ぁ?どうして今日来れなかったの〜?』
鬱陶しく電話してくる女。
『あ〜ユミちゃん。もう終わりにしよっか?』
『はあ!?なんでよ!』
『ユミちゃんが別の男といっぱい遊んでるの知ってるし、俺、他に好きな人できちゃった』
『…遊佐だっていっぱい他の人と遊んでたくせに……っ、ユミの本気は遊佐だけだよ…っ』
電話越しに鼻を啜ってなく声が聞こえてくる。
……あぁ。めんどくせぇ。
俺は、何も返事をしないで電話を切った。
何でこんなことになってるかというと、
俺がさっきのユミちゃんとかいう女の約束をドタキャンして、あなたちゃんの学級日誌を書いてたから。
あの女と一緒にいるのが最近めんどくさくなって、
とりあえず一緒にいればすぐ時計だの財布だのネックレスだのねだってくる。
だから、ドタキャンしてやることもなく、あなたちゃんの学級日誌を書いていた。
……『一生懸命で、最低男ではないと思う』…か。
気まぐれでやったことにあんなにお礼を言われて、
挙句、こんな言葉をかけられたのは始めてだった。
まぁ、元の性格が最低だから女には最低男って言われるんだろうけど。
元から可愛いし、地味に狙ってたあなたちゃんだけど、彼氏がいる。
しかも厄介そうな神城翔。
だから手を出すのはやめておいた。
別に彼氏待ちを奪おうとして、その彼氏とトラブルなんてめんどくさいことしたいとは思わない。
……それなのに。
「なんなのあの笑顔…」
あの言葉と、同時にした笑顔。
多分、遊びとかではなく割と本気でおちたんだと思う。
彼氏待ちには興味ないのに、
俺はあなたちゃんに興味を持ってしまったらしい。
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更新が遅くなってしまいました;
大変お待たせしました…!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!