第2話

第二話
17
2020/12/13 07:54
あなた

おはようございまーす!じゃなくて、こんにちは!でもないか、こんばんは!はじめまして、私、ここの十五代目当主やってますヨイノ あなたと申します!あっ…

キリア
キリア
…?
あなた

すみません…名前、忘れて下さい。お願いします

キリア
キリア
…?分かりました…?
サッと顔色を変えて「忘れて下さい」と言ったのが不思議でならない。確かに名字で呼ぶ事の方が多いだろうけど、そこまで重要な事なんだろうか。
あなた

…はい!ありがとうございます!改めて、私、十五代目当主のヨイノと申します!名前はありません!

ガラッと最初のハイテンションに変わって部屋にきたヨイノ公爵は、昨日と同じ軍服を着て、また同じように鞄を肩から提げ、左腰に短めの剣を挿して現れた。

そんな事より。
キリア
キリア
名前が、無い?
あなた

はい、なんか過去に色々あったらしくて~確かに名前ないと不便なんですけど、呼ぶ時はヨイノでお願いします。まあここの主人だからって主って呼ぶ人もいますけど。
…それでなんですけど、あなたのお名前を聞かせて下さい。もしくは出身家を。確認の為に

キリア
キリア
俺は…キリア。クイナ伯爵家から来た…
俺は、この女のような名前が好きになれない。
どうやら色以外の見た目は随分と母親に似たようだった。お陰で細身、柔らかいストレートの髪、それを伸ばしているのだから女装でもすればかなりの確率で女と見間違えられるのではと自分でも思う。案の定ヨイノも
あなた

あら、名前以外と可愛らしい

と言った。しかしその後
あなた

でも結構低い声されていて、私そういう声大好きなんです…

と、うっとり顔で言われた。
キリア
キリア
なっ…!いやっ、えっと…!
声について言われたのは初めてだった。
あなた

あら…?褒められ慣れてない?綺麗な瞳と声をしてるのに。私その色大好きなんだけどなぁ。周りの人は一体どんな感性をしていたんだ…!?

確かに褒められるなんて事は滅多になかったけど…。うっかり動揺してしまった。家の付き合いで会う人は大人の男ばかりだったからな…。
まず、あまり女性に免疫がないようだ。いくら自分より少し年下の子でも…。
あなた

まぁ、周りの人の感性は置いといて…

キリア
キリア
あ、すみません
い~え~、と言った後、この屋敷について話し始めた。何か一つ話す度に話が脱線して「おっと、閑話休題ですね」というため無駄に長かったのでまとめると…
・食事は皆で ・外出の際は誰かに必ず言っておく事 ・自分の部屋では好きにしていいが、片付けはちゃんとする事(しないと強制的にされるそう) ・平和と安全(と安定)第一
あなた

それと、これね

キリア
キリア
綺麗…
鞄から出して手渡されたのは綺麗なエメラルドついた耳飾りだった。エメラルドは中に傷がついている事が多いが、これは傷は殆ど見当たらず、中には美しさの一つとされる気泡が入っていた。
あなた

ふふ、あなたの瞳と同じ色の中でも一際美しい物を選んで加工してもらったの!
それ、外出の時と政府の訪問の時に着けてね。伯爵家だと色んな人に顔知られちゃってるでしょ?だけどそれ着けてると私の…じゃなくてヨイノ公爵のお気に入りって証になるから大抵の事は普通に出来るわ。…まあ権力にモノ言わせてる事になるんだけどね

お気に入り…この目と声だけなんだろうが…
あなた

べっべべべ別にお気に入りとかじゃ、いや違くないんだけど全部だけど、じゃなくて!貴族出身の人皆に渡してあるから!顔知られてる事が多くて外出とかさせられないから渡してるだけだから~!

声に出てたか!?
顔真っ赤だな。早口過ぎて何か聞き間違えたようだな。うん。


一瞬、目が合った。
あれ…?なんか瞳に…惹き付けられる…。
改めて明るい所で見ると、結構な美少女だな。色白の肌に、毛先にいくにつれてだんだん色が濃くなる水色の髪、それを後ろで高く結い上げていて。綺麗な黄色をした飴のような大きな瞳をしていて…。
そんな事をぼんやりと思いながら、いつの間にか自分の右手がヨイノの頬をすう…と撫でていた。
パァン!
キリア
キリア
はっ!うわっ
突然大きな音がして目が覚めた。
あなた

ごめんなさいっ!大丈夫ですか?正気に戻って…

キリア
キリア
あ、ああ…大丈夫…
咄嗟にそう答えたが、何か起こったのか全然解かっていなかった。
あなた

あの、えっと、私のこの瞳、ちょっと魔眼な所があって…。目を合わせると、偶に一瞬で魅了されちゃう人とかいて、早めに正気に戻す為に、目の前でこうやって手を叩くのが一番かと思って。直接はたく訳にはいかないし…うぅ

涙目になりながら…途中ポロッと涙を零しながら、小さな美少女は説明してくれた。
涙…と言っていいのならば。
その目から溢れて溢れたのは宝石だった。床に落ちて、パリンと割れて、消えた。
キリア
キリア
ぅゎっ泣かないで、大丈夫ですから。安心して下さい…戻りましたから
魅了の魔眼に、宝石の涙か…。
まあ、稀に聞く。魔眼はそれ程でもないけれど、宝石の涙はとても珍しい。
下衆な輩にコレクターがいると聞く。
目を合わせないように気をつけながらもう一度ヨイノを見る。魅了されていなくても、結構な美少女である。
そんな小さな美少女は、少し濡れた目元をレースのハンカチで拭った。
あなた

はい!…ふぅ…。あ、そうだ、一応言っておきますが、私、あなたと同い年ですからね!本来なら高等科一年の歳ですから!

えっ、てっきり二つくらいは年下だと。
あなた

昨日のうちに頑張って色々あなたの情報書かれたやつを掘り当て…探し出したんです

どんだけ部屋散らかってるんだよ。発掘作業しなきゃいけないくらいって…。
閑話休題
あなた

あと一つ、あなたの案内役?みたいな感じで紹介したい子がいるの。隣の部屋のリク君。この子は三年前に来た子で、あなたの二つ下なの。でもしっかりしてるから。私の部屋の片付けもよく頼んでる位の…

人に頼まないといけないくらいなのか…。
リク
リク
ほんと、すごく散らかってるんだよ。片付け自体は好きなんだけど、この人の部屋だけは大変なんだよね
心の声に応えるように、「だけは」を強調した少年らしい声が割り込んできた。
あなた

ひゃあっ、いつの間に!

リク
リク
ついさっきだよ。…はじめまして!こんばんは。リクです。これからよろしくね!
そう言って夕ご飯が乗っているお盆を片手に、手を差し出した。
キリア
キリア
あ、ああ。よろしく、頼む
あなた

それじゃあ早速で悪いけど、リク君、キリア君をお願いするね。仕事に行ってきまーす!

キリア
キリア
いってらっしゃい
リク
リク
いってらっしゃい!
慌ただしいな、本当に。

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