さっき帰った女の子の言葉が、頭の中にこびりついて離れない。
いつも通り賢人君の隣に座ってはみたものの、何を話せばいいんだろう。
ごまかしても仕方ないか……。聞きたいこと、直接聞こう。
賢人君でも、そういうミスをすることがあるんだ。
注意深い完璧人間っぽいイメージがあったんだけど。
まるで他人事のように、淡々と話す賢人君。
近い身内に有名人がいるっていうことは、実はそれほどいいことばかりではなく、苦労が多いのかもしれない。
賢人君が……あの女の子を……褒めている。
私、ほとんど褒められたことがないのに。
やっぱり、あの子を作家として育てるために、編集者としてペアを組むつもりなんだ……。
そこまで言うのが限界だった。
私は、店を飛び出してとにかく走った。居づらかった。離れたかった。
胸が締め付けられる。息苦しいのは、走っているのが理由ではなさそう。
私は、どうしてこんな気持ちになっているんだろう。
この気持ちを文章にするなら、どんな風になる……?
こんなことを考えていると、案外私は冷静なのかな、とも思う。
でも、胸の苦しみはどんどん増していった。
たぶんあちこちを走り回っていた私は、いつの間にか公園に辿り着いていた。
ベンチに座り、大きく息を吐く。
ぼんやりと薄暗い空を眺めながら、私は思ったことを小さく声に出した。
主人公が苦難にぶつかるところは、きっと盛り上がりどころなんだろうな。
人間と同じようなキャラクター設定をするんだから、その成長も人と同じ。
苦難を乗り越えていく様子が、魅力的に映る。そして、キャラクターを一段階成長させられる。
だからこそ出せる強敵もいるんだろう。
ただ……。
そして、私は自分の気持ちが理解できた。
言葉にしてみると、しっくりときた。これは私の本心だ。
ただ……これが、私の気持ちの全部なのかな?
どこかに物足りなさを感じたけど……それは、今の私にはまだよくわからない。
それに。
賢人君があの女の子と一緒にやっていく決意をしたのなら、もう私の想いは叶わない。
私はキャラクターたちみたいに、この経験から立ち直って成長していくことができるのかな。
しばらく、私はいろんなことをぐるぐると考えていた。
どれくらい時間が経っただろう。
何かが頬に触れて、私は我に返った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。