第7話

第7話 ドスッとやったらぼーん!
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2021/04/25 01:00
賢人
賢人
よう、来たか
(なまえ)
あなた
うん、今日もよろしく!
いつもの席で、相変わらずレーズンパンをかじる賢人君。
お祭りデートをして以来、私はなんだか賢人君の見方が変わったような気がする。
ただぶっきらぼうなだけじゃない、優しい一面を見たからなのかな。
ただ……。
賢人
賢人
じゃあ、さっさとやるぞ。原稿出せよ
賢人君は今までと何にも変わりないのが……なぜだかちょっとさみしい気がする。
自分がどうしてそう思うのか、よくわからないのだけど。
(なまえ)
あなた
今日はどんな講義?
賢人
賢人
お前の小説は、恋愛メインではあるけど勇者が魔王を倒すっていうファンタジーの要素もある
(なまえ)
あなた
うん、その通り
賢人
賢人
だから、バトルシーンがあるわけだが……
賢人
賢人
例えばこのページだ
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勇者は攻撃した。ドスッ。
魔王は反撃した。バキッ。
そこへ戦士が飛び出してきた。デュクシッ。
爆発した! ぼーん!
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(なまえ)
あなた
ここはラストバトルだね。盛り上がりどころだよ!
賢人
賢人
頼むから、まるで盛り上がっていないことに気付いてくれ
(なまえ)
あなた
そうかなぁ
賢人
賢人
ここを読むだけじゃ、まったく何が起こっているのかわからない。昔のゲームかよ
(なまえ)
あなた
昔のゲーム?
賢人
賢人
戦闘が文章で描写されるロールプレイングゲームだ。お前のはそれよりひどいが
(なまえ)
あなた
ああ。戦士の攻撃、かいしんの一撃で10のダメージをあたえた! みたいなやつね
賢人
賢人
前にも言ったが、お前の頭の中に情景が浮かんでも、読者には見えない。何が起こっているのかを、文章で伝えなきゃならないんだ
デートで学んだことと同じってことか。
戦いの臨場感を、読者さんに文章で伝えなきゃならないんだ。
(なまえ)
あなた
でも、わかんないよ。私、魔王と戦ったことないもん
賢人
賢人
バトルシーンのある小説を書いている作家で、魔王と戦ったことのある人のほうが少ないだろうな
(なまえ)
あなた
みんな、どこで戦う場面を勉強するの?
賢人
賢人
そりゃあ、映画やドラマやゲーム、マンガやアニメ、そして他の人が書いた小説だ
賢人
賢人
作家はひたすら書けばいいってもんじゃない。自分の中に知識を入れるのも大事なことなんだ
(なまえ)
あなた
そっか……そうだよね。こないだのデートと同じで、知らないことは書けないもんね
賢人
賢人
あんまり期待せずに聞くが、お前はこれまでの人生でどれくらい本を読んだ?
(なまえ)
あなた
えっと……小説なら……最後に読んだのは……
基本、活字の本はできるだけ避けて生きてきた。教科書以外で活字を読んだ記憶は……。
(なまえ)
あなた
小学生の頃、クラス文庫にあった『どっきり5人組』っていう小説を読んだのが最後だよ
賢人
賢人
児童文学……。お前、それっきり読んでないってことか?
(なまえ)
あなた
うん
賢人
賢人
オオノ春美は? お前、オオノ春美が目標なんだろ?
(なまえ)
あなた
えーっと、本屋さんで表紙にかかってる……帯? あれだけ読んだよ。好きな芸人さんのコメントだったから
賢人
賢人
オオノ春美に憧れているくせに、読んだことがないのかよ……
賢人君はがっくりと肩を落とした。どうやらまた、私は彼をがっかりさせてしまったらしい。
たまには彼を喜ばせたい……というか、褒められたいものだけど……。
賢人
賢人
いいか。お前の引き出しには、表現する言葉が足りなさすぎる
(なまえ)
あなた
はい……おっしゃるストリート
賢人
賢人
とにかく本を読め。何でもいいから読め! マンガでも図鑑でもいい
賢人
賢人
とはいえ、お前が目指しているのは小説を書くことだ。小説は読んでもらわなきゃ困る
そう言うと賢人君は、自分のカバンにごそごそと手を突っ込んだ。
賢人
賢人
これを貸してやる
これは……オオノ春美先生の小説!
あれ? 前にオオノ先生の名前を聞いたときに賢人君は微妙な反応だったから、私てっきり苦手な作家なんだと思っていたんだけど……。
(なまえ)
あなた
賢人君、どうしてオオノ先生の本を……?
賢人
賢人
細かいことは気にするな。とにかく手始めにこれを読んどけ。昨日出た新刊だ
私は、賢人君からオオノ先生の本を受け取った。
よく考えたら私、児童文学以外の小説を手に取ったのって初めてかも……。
以前は避けていた活字だけど、今はちょっと本を開くことに対してワクワクしている自分がいた。

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