いつもの席で、相変わらずレーズンパンをかじる賢人君。
お祭りデートをして以来、私はなんだか賢人君の見方が変わったような気がする。
ただぶっきらぼうなだけじゃない、優しい一面を見たからなのかな。
ただ……。
賢人君は今までと何にも変わりないのが……なぜだかちょっとさみしい気がする。
自分がどうしてそう思うのか、よくわからないのだけど。
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勇者は攻撃した。ドスッ。
魔王は反撃した。バキッ。
そこへ戦士が飛び出してきた。デュクシッ。
爆発した! ぼーん!
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デートで学んだことと同じってことか。
戦いの臨場感を、読者さんに文章で伝えなきゃならないんだ。
基本、活字の本はできるだけ避けて生きてきた。教科書以外で活字を読んだ記憶は……。
賢人君はがっくりと肩を落とした。どうやらまた、私は彼をがっかりさせてしまったらしい。
たまには彼を喜ばせたい……というか、褒められたいものだけど……。
そう言うと賢人君は、自分のカバンにごそごそと手を突っ込んだ。
これは……オオノ春美先生の小説!
あれ? 前にオオノ先生の名前を聞いたときに賢人君は微妙な反応だったから、私てっきり苦手な作家なんだと思っていたんだけど……。
私は、賢人君からオオノ先生の本を受け取った。
よく考えたら私、児童文学以外の小説を手に取ったのって初めてかも……。
以前は避けていた活字だけど、今はちょっと本を開くことに対してワクワクしている自分がいた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。