試合は中盤。
烏野は中々点が決まらないでいた。
私のサーブで3点は稼いだ。
でも、国見に上げられてからは不調。
私はレシーブが苦手なのに後衛にいるから中々取れない。
逃す度に影山が睨んでいるのが見える。
「もっと本気になってくれよ」と言わんばかりの視線。
分かってるよ。本気だよ。
久しぶりのバレーなんだもん。
楽しいじゃん。
やっぱりバレー好きだし。
サーブで飛んできたボールを素早く縁下が拾い上げる。
レシーブが上がった、繋げなきゃ。
影山は、誰にトスを上げる?
私だ。
飛べ私、あれ、着地は?
どっち足からだっけ。
それを考えるより先にブロックの壁の、そのまた向こう、
頂の景色が見えた。
久しぶりだ。
私、まだ飛べたんだ。
手に吸い付いてくるいいスパイクを打ち込んで、悦に浸る。
全てがスローモーションのように進んでいって、私のスパイクはコート内で誰もいないところにきれいに打ち込まれた。
あれなら誰も拾えない。
1点、こっちのモンよ。
ゆっくり、ゆっくりと地面へと降りていき、右足が地面に着いた瞬間、膝の力がカクっと抜けて、倒れる感覚が分かる。
前に倒れる。着地失敗。
このままいけば顔面強打。
ああ、そうだった。
私は…
私が飛ぶための羽はとっくに折れてるんだ。
誰かが私の傍に駆け寄ってきて、前のめりに倒れていく私を抱きとめる形で支える。
私の膝は壊れていてあと何回飛べるかは分からない。
みんなに心配はかけたくない。
どうしよう。
縁下のその言葉に、一同がホッとした表情になり、「貧血かあ」「とりあえず休んでこいよ〜」と皆が口々に声をかける。
縁下が肩をサッと抱いて、ちょっと外の空気を吸いに。と体育館を抜け出した。
隣のコートで及川が明らかに動揺しているのが窺える。
が、そんな悠長に周りを見る余裕など私には無く、冷や汗ダラダラで下唇を切れんばかりに噛み締めて膝の痛みに耐えていた。
烏養が着いていこうか?と声をかけたが、大丈夫です、となけなしの笑顔で断る。
体育館を出た瞬間に笑顔をやめ、段差に座り込んで壁に背を預けた。
貧血じゃないって分かってて周りにはそう言ってくれたのか。
私の右膝の裏には、ミミズがいる。
つまり手術痕。
これが、私の飛べなくなった理由。
私が飛んで着地するときは絶対、右足からだったのに、
壊れてしまった。
〜作者から〜
これで顕になった藍原ちゃんの過去!!!
こういうとき咄嗟に気付いて庇ってくれるのは縁下だと思うんですよ私…!!
誰か、誰か、コメント欄で絡みに来てくださいいいい🥴🥴
待ってますねええ😻😻
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。