第64話

捕食者の目
6,134
2021/02/07 16:18
おいおいおいおい、最初から仕掛けてくるか?


牛島サーブ。


そんでもって、目でしっかりロックオンされてんのよ。


「お前が上げろ」って。
私女の子なんだけど。


こんの貧弱な腕でサーブレシーブできたら、全人類牛若だよ(?)
あなた
さ、来ーい!!
待って、勝手に話してる。


私の意志とは関係なく(?)
太一助けて…
川西太一
トスなら任せとけ!ツーアタックだろ?
違うんだよそこじゃねえだろ。
そんなことを考えているうちに、ホイッスルが鳴り響いて牛若サーブがとんでくる。
烏野のみんな、私は体を張って牛若のサーブを体感してきます。


この感想がみんなの役に立ったらいいな。


最も、生きて帰れるか分かりませんが。
こんな敵の勢力を自ら体感するようなマネージャー、絶対いないけど、うちのマネ最高で最強って言われるくらい、
あなた
がんばるからっ!!!
腰を低くおとした状態で、前腕でバッとボールを弾くと、自分の体が後ろに傾き、一回転したんじゃないかってくらいぐるぐる回った。
あなた
ボールはまだ、落ちてねえ!!繋げ!!!
ネットを超えそうなボールを、すんでのところで川西がセットアップをしようと必死にジャンプしている。
「トスなら任せとけ!」



いいじゃん、いい根性してるじゃん!!



引っ転げてすごい体勢をしていたが、急いで起き上がり、ボールまでかけだす。
あなた
お前らも走れ!!
そう言って、シンクロ攻撃を促す。



できるはずなんてない。



敵を撹乱させるには十分だ。
そうして、敵が慌てふためく中藍原のバックアタックが勢いよく弾かれる。
藍原は元ウィングスパイカー。
スパイクのバリエーションも、割と豊富なのさ!
左足から地面にタッと着地。


ニヤリ、笑みがこぼれた。
牛島若利
何がおもしろい?
あなた
あなたから取れた1点は、大きいものでしょう?
そう言うと、こめかみを伝う汗をそっと右手の甲で拭った。
.

.

.
瀬見英太
すっげーなあの2年のセッター。
白布賢二郎
でも生意気ですよ。
瀬見英太
そりゃお前もだ。
先制点を取って、勢いがついた藍原達のチームは続けて3点を取ったが、強烈なスパイクに為す術もなく打ちのめされる。


時折、向こうのミスで点を稼ぎ、サーブ権を奪うことで点を伸ばせてはいるが到底及びそうもない。


今では8対17とかなり点差をつけられていた。
牛島若利
藍原隼人、お前にさっき感じなかった生命力を感じる。
あなた
どういうことですか。失礼な。
牛島若利
そのままの意味だ。
牛島若利
しかし、セットアップが無駄にうまいだけで、レシーブやブロックは稚拙だな。
稚拙・・・技術や作品が下手で子供っぽいこと。


は?何を言い出すんだろうこの人は。
あなた
確かにレシーブもブロックも俺は下手です。ただ、セットアップが無駄に  .  .  .  うまいって言葉取り消してください。
牛島若利
いいや無駄だ。ヘタにうまいそのセットアップはお前を自信過剰にするだろう。そしていつか、仲間を置き去りにする。
牛島若利
1人でうまいだけのセットアップは、無駄だろう?
あなた
はは…確かに言えてる。
あなた
置き去りにしてしまったこともある。その代償に自分が1人になった。
あなた
でも、俺はいつだって自信過少です。
怪我をして、仲間を失って以来、いつだって自信なんてものに頼ったことは無い。


それに、自分の技術に自信をもてないままバレーを遠ざ2年以上もの月日が経ってしまった程だ。
あなた
自分を信じることもできねぇようなやつは、仲間を信じればいい。そう教えてくれた人がいるので、
あなた
俺のやり方に口出さないでください。
そうそれは、捕食者の目。


王者牛若さえも黙らせる、威圧的な目だった。


決して覆ることなどないだろう、と誰もが思う現実を、藍原なら変えてしまうのではないかと錯覚させられるくらいの気迫。

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