及川との電話が終わり、現在の時刻0時7分。
さすがに皆寝ただろうなあ
なんて考えながら施設の中へ戻った。
そのまま寝ようかと考えたが、体が冷えてしまって中々寝付けそうにない。
自動販売機でココアでも買って飲もうと廊下へ出て、お金を入れた。
たまたま手持ちが500円しかなく、お釣りを取るときに小銭をぶちまけてしまう。
唯一の明かりである自動販売機の明かりだけでは何も見えず足元の様子などめっぽう窺えそうにない。
とりあえず手探りで探していると、何やら人の手がぬっと出てきて藍原の手を掴んだ。
その声で明らかになった手の主は、部1番の背高のっぽ月島蛍。
暗闇でいきなり近付いてきて、手まで掴まれるなんて普通なら絶叫モノだ。
そう言って自分の動脈を差し出してみた。
暗くてよく分からないが今きっと、なんだコイツみたいな顔をされているのだろうと自覚し、手を下ろした。
「へえ…」と一言呟いて立ち上がると、こう言葉を続けた。
月島につられるように立ち上がり、拾ったお金を数えるといつの間にかピッタリ拾っていたようだった。
こんなに近くで2人が話すことなど中々なく、その月島の身長に驚いて開いた口が塞がらない藍原。
藍原に似て感情の抑揚がイマイチ掴めない男だ。
その掛け合いがなんとなくおもしろくて、先にクスクスと笑いだしたのは藍原で。
それにつられて少しふっと笑う月島。
笑うことが珍しいこの2人。
その返答に「ほんとですね」と言いながらクスクス月島は笑った。
せっかく買ったココアは冷えてしまっていて、体を温めることは出来なさそうだ。
「わーい」と1人心を弾ませながら、冷めてしまったココアをポケットに入れる。
ゴトンっと缶が落ちる音の次に、缶の蓋を開ける音が響き、月島が1口飲んでいた。
微かな明かりに照らされる月島の横顔は、妙に大人びてきれいだ。
自分が1口飲んだ缶をぶっきらぼうにこちらへ寄越すと、「じゃあまた明日」と言って颯爽と部屋に帰って行った。
今日1日で立て続けに起きた間接キス案件。
西谷事件の方は、藍原が気づくのが遅かったが、今回は違う。
月島は気付いていないのか、はたまた気づいていながらこちらをおちょくっているのか。
彼も大概感情無し能面男なのかもしれない。
という風に考えることにし、さすがに及川にこれは悪いと思ったため指でそっと飲み口を拭って(結構失礼)ココアを喉に流し込んだ。
なにこれと缶の表面を明かりに照らして見てみると、『ブラックコーヒー』の文字が。
やっぱり高身長ゲス男だ。
私は苦いのは飲めないのだよ。
と1人悶絶した。
その頃月島は、部屋のドアを閉めた直後、壁にズルズルと背中を付けながらしゃがみこんでいた。
両手で覆われた顔は赤くなっており、
と独り言を漏らしたそうな。
藍原が思うような高身長感情無し能面男は一体どこへ行ったのか。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。