そこからこっちのペースは一気に崩れて行った。
ありったけの川西のスパイクも止められるし、周りの素人どもは役に立たないし。
でもそんな考えダメだ。
だから女王だなんて言われてしまう。
やだ、こんな自分が嫌いだ。
キミは隼人クンでしょー?と言いながら、ニコニコと笑う天童。
果たして何が言いたいのか、藍原にはその魂胆が全く分からない。
ドロ沼のように抜けられない過去のしがらみにずっと取り憑かれていたんだと思う。
でも、そんな単純な答えで一気に引き上げられたような、すがすがしい気持ちになった。
頬を両手で一度叩き、集中を高めるとふーっ、と深く息を吐いた。
それにしても、3年ぶりに藍原が試合に出るなどどうして分かったのだろう。
女バレの朝練にはここのところほぼ毎日通っているが、知り合い以外に試合に出ると伝えたことはない。
指先を見ただけで分かるというのか。
ほんとにどこまでも人の気持ちが分かってしまう天童、末恐ろしい。
グッと前髪をかきあげて、メンバー全員に聞こえるよう、そう意気込んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。