私藍原あなた、久しぶりの大会で膝が笑っております。
手術痕のミミズも大笑い。
あっはっは。
なんやねんほんまこのテンション。
ふと目を覚ましたかのように冷静になる。
バスを降りて、周りを見渡すと、人が多いのなんの。
中に入って、とりあえずトイレ行って出てきた時、人とぶつかってしまって焦る焦る。
藍原の手を取り、上下にぶんぶんと振り回しては子犬みたいに笑う川西がなんとかわいいことか。
ふと視界に入ったのであろう藍原のサポーターを見て川西は首を傾げた。
「よっしゃ!」と嬉しそうにガッツポーズする彼を目の前にどう反応していいか分からず、苦笑いを浮かべた。
そうして川西と別れると、どうしようか悩んだ藍原は外の空気を吸うべく体育館から出た。
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体育館の裏口から出てきたため、正面玄関へ回ろうと歩いて言ったところで、何やら女子たちの声が聞こえてきた。
体育館の角の壁に背中を付けて話を聞いていると、どうやら及川に女子たちが群がっているらしい。
珍しく困っているようだった。
新しい女でもできて、そいつがとんでもねえメンヘラでファンとの交流を許されていないのだろうか。
その言葉に一瞬涙腺が緩みかけた。
別に及川の為じゃないし。周りの騙されてる女たちの為だから。
そう自分に言い聞かせて角を曲がり、姿を現すと、位置的に及川の視界にのみ藍原が入り、一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに目を伏せた。
そして差し入れであろうクッキーを手に持った女の肩に腕を置いて、1枚頬張ると、女の顔を覗き込み、
とそう囁いた。
藍原がそう言い切ったと同時に、顔を伏せていた及川が頭を上げるとどこからか飛んできたボールが後頭部を直撃した。
ボールの飛んできた方向を見ると、般若の如く顔をしかめた岩泉が。
取り巻きの女達からパッと腕を離して岩泉のいる方へと身を翻す。
そう言いながら頭をガシガシと撫でる岩泉の眼前に拳を突き出し、グータッチを交わすと、先に体育館へ入るよう促された。
ツンデレの常套句とも捉えられるような台詞を吐きながら、振り向きざまに及川へ指を指すと上着のポケットに両手を突っ込んで、体育館へと歩を進める。
「勝手にどうぞ」とでも言いたげに藍原はポケットから片手を出すとヒラヒラと手を振った。
「よし、頑張ろう岩ちゃん!!」そう言いながら拳を高く突き上げた及川である。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!