第80話

スタートライン
5,340
2021/03/30 05:29
私藍原あなた、久しぶりの大会で膝が笑っております。


手術痕のミミズも大笑い。


あっはっは。


なんやねんほんまこのテンション。
ふと目を覚ましたかのように冷静になる。


バスを降りて、周りを見渡すと、人が多いのなんの。
中に入って、とりあえずトイレ行って出てきた時、人とぶつかってしまって焦る焦る。
??
あなたさん…?
あなた
太一…?!
川西太一
あなたさんじゃないッスか!会えて感動ですまじで…!
藍原の手を取り、上下にぶんぶんと振り回しては子犬みたいに笑う川西がなんとかわいいことか。
ふと視界に入ったのであろう藍原のサポーターを見て川西は首を傾げた。
川西太一
サポーターの色、変わった理由聞いても?
あなた
あー、別れたんだよね徹と。
川西太一
まじすか?!
「よっしゃ!」と嬉しそうにガッツポーズする彼を目の前にどう反応していいか分からず、苦笑いを浮かべた。
あなた
そう言えば、隼人学校来てる?
川西太一
来てます来てます!俺寮が相部屋なんで、あいつ戻ってきて狭くなりましたけどw
あなた
男2人部屋とかむさ苦しいね、まあ頑張れ。
川西太一
あなたさんこそ、怪我しないように頑張ってくださいね、!
あなた
ありがとう。
そうして川西と別れると、どうしようか悩んだ藍原は外の空気を吸うべく体育館から出た。
.

.

.
そこら辺の女
これ、夜更かしして作ったんです…!
体育館の裏口から出てきたため、正面玄関へ回ろうと歩いて言ったところで、何やら女子たちの声が聞こえてきた。
体育館の角の壁に背中を付けて話を聞いていると、どうやら及川に女子たちが群がっているらしい。
そこら辺の女
及川さん写真良いですか…?!
及川徹
いや〜、さすがに写真は…
珍しく困っているようだった。


新しい女でもできて、そいつがとんでもねえメンヘラでファンとの交流を許されていないのだろうか。
そこら辺の女
でも今彼女さんいないって聞きましたよ?!
及川徹
いないからこそだよ。しっかりケジメ付けなきゃ。
その言葉に一瞬涙腺が緩みかけた。


別に及川の為じゃないし。周りの騙されてる女たちの為だから。


そう自分に言い聞かせて角を曲がり、姿を現すと、位置的に及川の視界にのみ藍原が入り、一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに目を伏せた。
そして差し入れであろうクッキーを手に持った女の肩に腕を置いて、1枚頬張ると、女の顔を覗き込み、
あなた
クマできてるし、毛穴開いてる。写真は今度にした方がいいかもね。
とそう囁いた。
そこら辺の女
あ、あなた及川先輩の何なんですか?!
あなた
6年付き合ってた元カノですが何か。
藍原がそう言い切ったと同時に、顔を伏せていた及川が頭を上げるとどこからか飛んできたボールが後頭部を直撃した。
及川徹
いったあ…、監督にもぶたれたこと無いのに!それにちゃんと断ったんだけど…?!
ボールの飛んできた方向を見ると、般若の如く顔をしかめた岩泉が。
あなた
1週間ぶりだねはじめ。
取り巻きの女達からパッと腕を離して岩泉のいる方へと身を翻す。
岩泉一
よお、元気してっか。
あなた
元気元気。
岩泉一
今日もかわいいなあなたは。
あなた
え、どうしたの急に。
岩泉一
なんでもねえ、事実を言ったまでだ。
あなた
お、おう(?)
岩泉一
試合頑張れよ
そう言いながら頭をガシガシと撫でる岩泉の眼前に拳を突き出し、グータッチを交わすと、先に体育館へ入るよう促された。
あなた
あ、別に及川くんの為じゃないから。勘違いしないでよね。
ツンデレの常套句とも捉えられるような台詞を吐きながら、振り向きざまに及川へ指を指すと上着のポケットに両手を突っ込んで、体育館へと歩を進める。
そこら辺の女
及川先輩、もうあんな人ほっといて…って及川先輩?
及川徹
また…
そこら辺の女
え?
及川徹
また片思いから…始めていいですか?!
「勝手にどうぞ」とでも言いたげに藍原はポケットから片手を出すとヒラヒラと手を振った。
及川徹
ごめん…、でも、ありがとう…っ!
岩泉一
やっとスタートラインだな。
及川徹
いいや…まだまだだよ。
「よし、頑張ろう岩ちゃん!!」そう言いながら拳を高く突き上げた及川である。
岩泉一
片思い歴0日がせいぜい頑張れや
及川徹
え?
岩泉一
片思い歴6年やら3年、まあ敵はたくさんいるがな。
及川徹
そ、それってまさか、
岩泉一
早く行くぞ
及川徹
ちょ、岩ちゃーん!!

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