東京から帰ってきて、家に帰るその途中でなぜか遭遇したのはジャージ姿の彼。
あ、及川徹じゃないんです。
国見英。
私の顔を見るなりニヤッと笑っては、「彼女役してくれますよね?」なんて言う。
なんと強制的なやつでしょう。
そう言って私は、近くにあったクレープ屋の屋台を指さした。
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大ボリュームのクレープを口に頬張り、幸せそうな顔をする藍原。
なぜ国見が及川に電話をしているかというと、藍原の出した条件が、①及川にしっかり許可を取ること②藍原にクレープを奢ることであったためである。
及川『どうしたの国見ちゃん珍しいね!』
及川『え、なになにどういう状況?!ちょっとあなたちゃんに代わって!』
その声が聞こえてきたが、藍原はクレープをたくさん頬張っておりとても話せる状況ではない。
丁度飲み込んだ瞬間、なんとも誤解を生みそうな国見の発言に思わず吹き出してしまう。
及川『待ってなに咥えさせてんの?!吐き出さないでって何?!及川さん国見ちゃんのこと信じられなくなりそうっ!!』
電話越しに及川が焦りまくってる声が聞こえてくる。
早めにどうにかしないと私が浮気してとんでもないものを咥えてることになってしまう。
つくづく語弊を生みそうな事ばかり言うねえこの子は。
及川がどんどん焦ってる様子がもう手に取るようにわかる。
半ば無理やり携帯を手から奪い取り、もしもし?と及川に声をかけると、
及川『もしもしあなたちゃん?!今すぐそのばっちい物口から出しなさいっ!』
ともうかなり慌てていた。
及川『ほんとに?!大丈夫?!』
後ろから国見に「なんてこと言うんですか」とドヤされる。
及川『うんうん確かに、それで?』
及川『なるほどなるほど』
及川『何もしないなら許せるけど、、国見ちゃんにちょっと代われる?』
及川『うちのあなたに、惚れたらダメだからね?』
たまに及川があなたと呼び捨てで呼ぶ時がある。
※本人の前では決して呼ばないけど。
それはガチな時だと分かっているから国見はピシッと背筋が伸びる。
もう惚れてるなんて絶対に口に出せない。
そう考えながら、ペロッと舌なめずりをした国見である。
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そう言って藍原の手を掴むとぐいぐいと引いて川の堤防沿いに出る。
夕日は若干傾きつつ、川の水面をキラキラと輝かせていた。
そんな中ふと国見の足が止まって藍原の方を振り返る。
言いたいことは、こんな私でも分かる。
恋愛には疎い方だけど、もうここまで言われたら嫌でも伝わってくる。
国見の本気と後悔、行き場のない悲しみといら立ち。
ただどうしようもできずに藍原は動揺を隠せなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。