第32話

英ちゃんと藍原さん
8,228
2020/12/10 14:44
東京から帰ってきて、家に帰るその途中でなぜか遭遇したのはジャージ姿の彼。


あ、及川徹じゃないんです。


国見英。


私の顔を見るなりニヤッと笑っては、「彼女役してくれますよね?」なんて言う。


なんと強制的なやつでしょう。
あなた
いや、私今忙し…
国見英
すぐに済むんで、お願いしますよ。
あなた
…じゃあ条件2つ。
そう言って私は、近くにあったクレープ屋の屋台を指さした。
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大ボリュームのクレープを口に頬張り、幸せそうな顔をする藍原。
国見英
あ、もしもし及川さん?
なぜ国見が及川に電話をしているかというと、藍原の出した条件が、①及川にしっかり許可を取ること②藍原にクレープを奢ることであったためである。


及川『どうしたの国見ちゃん珍しいね!』
国見英
藍原さんを少しお借りしますね。
及川『え、なになにどういう状況?!ちょっとあなたちゃんに代わって!』



その声が聞こえてきたが、藍原はクレープをたくさん頬張っておりとても話せる状況ではない。
国見英
あ、今藍原さんくわえてるんでムリです。
丁度飲み込んだ瞬間、なんとも誤解を生みそうな国見の発言に思わず吹き出してしまう。
国見英
ちょっと藍原さん、吐き出さないでくださいよ?
及川『待ってなに咥えさせてんの?!吐き出さないでって何?!及川さん国見ちゃんのこと信じられなくなりそうっ!!』
電話越しに及川が焦りまくってる声が聞こえてくる。


早めにどうにかしないと私が浮気してとんでもないものを咥えてることになってしまう。
国見英
ちゃんと飲み込めました?コレクリーム(名前が出てこなかった)制服についたら白い染みになりますよ。
つくづく語弊を生みそうな事ばかり言うねえこの子は。
及川がどんどん焦ってる様子がもう手に取るようにわかる。
あなた
代わって。
半ば無理やり携帯を手から奪い取り、もしもし?と及川に声をかけると、
及川『もしもしあなたちゃん?!今すぐそのばっちい物口から出しなさいっ!』
ともうかなり慌てていた。
あなた
これは英ちゃんの言い方が悪い。クレープ食べてただけだから私は。
及川『ほんとに?!大丈夫?!』
あなた
大丈夫大丈夫。なんかね、英ちゃんって見栄っ張りじゃん?
後ろから国見に「なんてこと言うんですか」とドヤされる。



及川『うんうん確かに、それで?』
あなた
友達に彼女いるって嘘ついたんだって。
及川『なるほどなるほど』
あなた
それで私に彼女役やってほしいって。許せる?
及川『何もしないなら許せるけど、、国見ちゃんにちょっと代われる?』
あなた
了解。
国見英
はい、国見です。
及川『うちのあなたに、惚れたらダメだからね?』
たまに及川があなたと呼び捨てで呼ぶ時がある。


※本人の前では決して呼ばないけど。


それはガチな時だと分かっているから国見はピシッと背筋が伸びる。
国見英
分かってます。
もう惚れてるなんて絶対に口に出せない。


そう考えながら、ペロッと舌なめずりをした国見である。


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あなた
どうも、英ちゃんがいつもお世話になってます。彼女の藍原あなたです。
友達
まじ美人じゃんか国見!
友達
羨ましすぎんか?!
国見英
まあ、それほどでもないけど。
あなた
なんだとこら。
国見英
じゃあこの辺で俺らは帰るわ。
そう言って藍原の手を掴むとぐいぐいと引いて川の堤防沿いに出る。


夕日は若干傾きつつ、川の水面をキラキラと輝かせていた。


そんな中ふと国見の足が止まって藍原の方を振り返る。
国見英
及川さんが藍原さんと付き合ってるの、羨ましすぎて今にも死にそうです。
あなた
お、おう?
国見英
俺が中学に入った時既に二人の間に取り入る隙なんか全くないし。
あなた
英ちゃん…?
国見英
あと2年早く産まれてればって何回も思いました。
言いたいことは、こんな私でも分かる。


恋愛には疎い方だけど、もうここまで言われたら嫌でも伝わってくる。


国見の本気と後悔、行き場のない悲しみといら立ち。


ただどうしようもできずに藍原は動揺を隠せなかった。

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