熱が出た時の藍原は意味のわからないことを言い出す。
でも、その言葉を否定したら泣き出してしまうため、肯定しながら話を進めることが必要なのである。
うん、と言いながらふにゃっと笑う。
こんな顔普段じゃ絶対に見れない。
くしゃみを1つ。
これを機に寒い寒いと言いながら震えだしてしまった。
とりあえず制服から寝巻きに着替えさせる。
フルフルと首を横に振り、ぬがせて。と息苦しそうにそう言った。
リボンをまず外してからベスト、シャツ、最後にスカートとこなれた手つきで脱がせていく。
もう一度言います。及川徹、慣れてやがります。
豊満なバスト、キュッと引き締まった腹部に臀部。
右膝裏のミミズはいつ見ても痛々しい。
そこにそっと触れながら、もうちぎれたらダメだよ。と言い聞かせるようになぞる。
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眠りについた、藍原を起こさぬようゆっくりと部屋から出て台所へ向かう及川。
基本米があまり好きではない藍原に、風邪をひいたときはいつもうどんを作る。
「ちゃんとふーふーして」と言いながらゆっくりと瞬きをした。
口にはしを近付けると、小さく口を開けて、うどんをちゅるちゅるとすする。
及川の胸元に顔をうずめて、上目遣い気味で見上げると、「いつものこうすいは?」と聞いてくる。
そうして、無事にお椀1杯分のうどんを何時間かかけて食べ終えた。
落ち着くまで肩をトントンと叩かれ続け、ゆっくりとまた夢の世界へ引き戻されていった。
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「あんたにはもう着いてけないよ。」
「橙野と2人で仲良しこよししてれば?」
「この女王様気取りが。」
夢か…
ぱちぱちと瞬きしながら部屋の時計を見ると、8時半すぎ。
足に重みを感じて、目線を移すとぐっすり眠っている及川の姿が目に入った。
まだ見ぬこの先の事を恐れ、独りでに涙を流す藍原。
インターハイ予選、どうなってしまうのだろう。
過去のしがらみに取りつかれた藍原を解放する人間は、まだ現れない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。