家に一人でいるとなんだかどうしようもない感情に駆り立てられそうだったため、家から緩慢且つぎこちない動作で飛び出し、学校へ向かった。
途中から降り出した雨が体を打ちつけることなどお構い無しに歩き続ける。
風邪ひいてしまえ。
そしたら、親が帰ってくるんじゃないか。
なんて考えながら。
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体育館の重い扉を開くと、部員達がパッと顔を輝かせては、藍原のびしょ濡れな姿に驚きを顕にした。
練習を中断させてしまったことが申し訳なく、私のことは気にしないで練習していいよ。
とだけ言って澤村達を宥める。
もちろん有無は言わせない。
そのまま烏養の元へ歩を進め、濡れないように腕に抱えて守っていたカバンからノートを取り出して、梟谷の練習方法をまとめたそれを手渡す。
まだ練習時間は残っているようで、体育館のステージに腰掛けて様子を観察していた。
清水の手伝いをしても良かったのだが、元々今日は終日休みを取っていたわけだから休んでて。と清水は肩に手を置きながら言った。
今にも藍原が壊れそうなことに薄々勘づいたのかもしれない。
清水には、かないっこないと改めて感じた。
新幹線でのちょっとした移動、国見との号泣事件、両親の家出、雨の中歩いたことによる疲労感。
あまりにも濃ゆすぎる週末だったため、いつの間にかウトウトとしてしまい、気づくと夢の中であった。
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菅原に肩を揺すられてハッと目を覚ますと、時刻は6時。
少しでも長く家からでている時間が欲しくて、藁にもすがる思いで聴いてみた。
なんだか、家に帰りたくないがために利用しているような感覚になって、罪悪感を抱いた。
終わりのミーティングを済ませ、挨拶も終わると東峰と西谷以外は部室へと帰って行った。
そう意気込んで体育館のステージからひょいと降り、水道へと向かおうとしたとき、後ろから不意に手を掴まれた。
ポツリと零した言葉は本当に私を思ってくれていて。
俺が___
西谷は自分自身が何を言おうとしているのか、自分の中ではっきり決まらず、言葉に詰まった。
と簡潔に西谷へ週末の出来事を伝えると、手を握る力をより一層強めては、
下を向きながら、弱々しく、されど力強く訴えかけてきた。
それすなわち、藍原に好意があるということ。
そう気付いた藍原の手を引っ張って、後ろに少しよろけさせると、そのまま後ろから抱き寄せられる。
後ろから伸びる手は、やや骨張っており、身長159cmの彼も男子なのだと改めて実感させられた。
タイミング良くなのか悪くなのか分からないが、ガラッと扉を開けて入ってきたのは東峰。
パッと西谷が離れ、まるで何事も無かったように振る舞う。
東峰は手に何枚かタオルを持っており、急いで藍原に駆け寄ると、タオルを頭から被せた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。