第100話

ただいまと言える場所
649
2026/03/30 06:00 更新
七人で暮らす家に、日常が戻ってきていた。

朝になれば、キッチンから聞こえる包丁の音。
和也の「起きろー!」という大きな声。
それに対して「うるさいって…」と返す大吾。
まだ眠そうにしながらも、流星を抱えてリビングに来る駿佑。
その後ろを、ぺたぺたと歩く恭平。

そして――
丈一郎
お前ら、靴そろえろや
変わらない、いつもの声。



あの日から、時間は確かに進んでいた。




謙杜も、駿佑も、流星も退院した。
体の傷は少しずつ癒えて、こうしてまた同じ屋根の下で暮らしている。
笑う時間も増えた。
ご飯も、また七人で囲めるようになった。



――それでも。
 


ふとした瞬間に、思い出す。
 


夜、電気を消した後。
物音にびくっとした時。
知らない人の声が近くでした時。



あの暗い場所。
怖くて、息ができなかった時間。
謙杜
……っ
謙杜は、何もないはずの部屋で、無意識に手を握りしめる。



別の部屋では、駿佑が布団の中で目を開けていた。
眠れているはずなのに、急に目が覚める。
駿佑
……だいじょうぶ……
自分に言い聞かせるように、小さく呟く。



流星は、時々寝言で「こわい」と言うようになった。
そのたびに、誰かがすぐに駆けつける。


和也
おるで
丈一郎
大丈夫や
その声を聞くと、流星は安心したようにまた眠る。



 
兄たちは、気づいていた。



弟たちが、まだ完全には戻れていないこと。
笑っていても、どこかで怖さを抱えていること。



そして何より――
丈一郎
……守られへんかったな
夜、誰もいないリビングで、ぽつりとこぼす。



和也は何も言わず、ただ隣に座る。
丈一郎
あんな目に合わせてもうた
丈一郎
兄として、失格や
和也も、ゆっくり息を吐く。
和也
……俺もや
和也
気づくの、遅かった


大吾も少し離れたところで、壁にもたれていた。
大吾
……俺なんか
大吾
恭平の話、ちゃんと聞かんかった


静かな空間に、後悔だけが残る。



あの時、もっと早く気づいていれば。
あの時、ちゃんと守れていれば。



誰も、そんな思いから抜け出せずにいた。
 



その時だった。

「……何してんの」



振り返ると、謙杜が立っていた。
丈一郎
起きてたんか
謙杜
トイレ
それだけ言って、少しだけ間を空ける。
謙杜
あのさ



三人の兄たちを見る。


謙杜
そんな顔せんといて



その一言に、空気が止まる。



謙杜
俺ら、生きてるやん

謙杜
助けてくれたやん



和也が、わずかに目を見開く。


謙杜
遅かったとか、守れんかったとか
謙杜
そんなこと、どうでもええねん



少しだけ、笑う。


謙杜
来てくれたやん



その言葉に、丈一郎の喉が詰まる。


謙杜
俺、あの時思ったもん
謙杜
絶対、来るって



駿佑と流星も、いつの間にか後ろに立っていた。



恭平も、眠そうな目で言う。


恭平
じょうにぃ、かっこよかった



その言葉に、空気が一気に崩れる。




丈一郎は顔を覆いながら、声を震わせた。
丈一郎
……あかんわ



和也も、大吾も、言葉が出ない。




謙杜は、少しだけ照れくさそうに頭をかいた。


謙杜
だからさ



一歩近づく。


謙杜
助けてくれて、ありがとう



その一言で。




兄たちの中にあった“後悔”が、静かにほどけていく。
 




丈一郎はゆっくり立ち上がって、謙杜の頭に手を置いた。


丈一郎
……こちらこそや



和也も、優しく笑う。



和也
生きててくれて、ありがとう



大吾は少しだけ目を逸らしながら言う。


大吾
……ほんま、ありがとうな



七人が、同じ場所にいる。




当たり前じゃなかったその光景が、今ここにある。




怖い記憶も、消えたわけじゃない。
傷だって、全部は癒えていない。




それでも。




手を伸ばせば、隣に誰かがいる。
名前を呼べば、ちゃんと返事が返ってくる。
 




「……ただいま」




誰かが、ぽつりと呟いた。




「おかえり」




その声が重なる。
 




それだけで、十分だった。
 




何も持たなかった七人が選んだのは、
ただ一緒に生きること。




泣いた日も、壊れそうだった夜も、全部越えて。
 




この場所がある限り――




何度でも、やり直せる。




何度でも、笑い合える。
 




これは、七人の“家族”の物語。




終わりじゃない。




ここからも、ずっと続いていく。




ただいまと言える場所で。






ここまで読んでくれてありがとうございます。

気づいたらこの作品も100話を突破してました。

ここまで続けてこれたのは、いつも読んでくれてる皆さまのおかげです。
ほんとに、ありがとうございます。

これからも大事に書いていきたいなって思ってるので、
引き続き見守ってくれたら嬉しいです。








📢 お知らせ

今、これからのストーリーの進め方でちょっと迷ってて…

せっかくなら、皆さまの意見も取り入れながら
一緒にこの作品を作っていけたらいいなって思ってます。

「こんな展開見てみたい」とか
「このキャラこうなってほしい」とか
なんでもいいので気軽に教えてほしいです。

たくさんのコメント待ってます💬

プリ小説オーディオドラマ