第96話

帰ってきた声
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2026/02/10 09:00 更新
生きる選択肢が、残り三分を切った。

心電図の音が、やけに大きく響く。
冷たい機械音の中で、丈一郎たちはただ祈ることしかできなかった。
丈一郎
……頼む……
丈一郎
謙杜……戻ってこい……
和也はベッドの横で、謙杜の冷たい手を強く握りしめている。
和也
……まだ終わりちゃう
和也
俺ら、まだ一緒に生きるって決めたやろ……
大吾は俯いたまま、何度も首を振った。
大吾
……守るって言うたやん……
大吾
約束やろ……
恭平は小さな両手で謙杜の指を包み込む。
恭平
……けんにぃ……
恭平
おきて……おねがい……
駿佑と流星も、必死に声を振り絞る。
恭平
……けんにぃ……
流星
……にぃ……
残された時間が、刻一刻と削られていく。


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💛side


――その頃。

俺は、家のソファに座っていた。

テレビはついているのに、音がしない。
部屋は妙に静かで、胸の奥がざわつく。
謙杜
……あれ……?
何気ない日常。
でも、どこかおかしい。

いつもなら、和にぃの大きな声が飛んでくる。
その声が、今日は一切しない。

立ち上がって、家の中を見渡す。

床には服。
テーブルの上には、食べ終わったままの食器が何枚も重なっている。
謙杜
……散らかりすぎやろ……
綺麗好きな和にぃがおる家とは思えん光景。

胸の奥に、じわっと不安が広がった、その時。

隣の部屋から、線香の匂いがした。
謙杜
……なんや……?
嫌な予感に背中を押されるように、襖を開ける。


――そこにあったのは。










俺の遺影だった。








謙杜
……は……?
白黒の写真。

その前で、丈にぃ、和にぃ、大にぃ。
そして、駿佑、恭平、流星。

全員が泣きながら、手を合わせている。
謙杜
……なんで……
意味が分からなくて、一歩踏み出す。

その瞬間、自分の手が透けていることに気づいた。
謙杜
……え….?
胸に手を当てても、何の感触もない。
謙杜
……俺……
そこで、ようやく分かった。









――俺、死んだんや。








息が詰まる。
喉が震える。




謙杜
……ごめん……
守るって言ったのに。
一緒に生きるって決めたのに。

必死に兄ちゃんたちの元へ駆け寄る。

でも、触れられない。
声も、届かない。
謙杜
……行かんといて……


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一方、現実の病室。

丈一郎たちは、残された時間を使うように、謙杜との思い出を語っていた。
丈一郎
……小さい頃な
丈一郎
熱出した俺の横で、一晩中うちわ仰いでくれとった
丈一郎
寝ながらやのに、離れんくてな……
和也
流星生まれた時も
和也
一番に抱っこして、“俺が守る側や”って言うた
大吾
学校でな
大吾
俺が落ち込んどったら、何も言わず隣来てくれた
恭平
……けんとにぃ
恭平
いつも、だっこしてくれた……
駿佑
……こわいとき
駿佑
前に立ってくれた……
その言葉は、確かに俺の胸に届いていた。

――兄ちゃんたち、そんなふうに思ってくれてたんや。

胸の奥が、じんわり温かくなる。
謙杜
……俺、幸せやな……
そう思った瞬間。

強い光が、視界いっぱいに広がった。
謙杜
……っ……!
身体が、引き戻される。



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💛side




目を開けると、そこは白い天井。

消毒液の匂い。
機械音。
謙杜
……ここ……病院……?
視界がぼやける中、すすり泣く声が聞こえた。

そちらを見ると、丈にぃ、和にぃ、大にぃ、恭平、駿佑、流星。

全員が泣いている。
謙杜
……夢……?
きっと、いい夢を見てるんや。

逝く前やし、最後にええ夢を見とこ。

そう思って、力を振り絞る。
謙杜
……兄ちゃん……
その瞬間。

全員の動きが、ぴたりと止まった。
和也
……謙杜……?
謙杜
……うん……?
次の瞬間。
丈一郎
謙杜!!!!
丈にぃが、思いきり抱きついてくる。
謙杜
……っ!?
丈一郎
戻ってきた……
丈一郎
ほんまに……戻ってきた……!
和也も、大吾も、次々と抱きしめてくる。
和也
……おかえり……
和也
ほんまに……おかえり……
恭平と駿佑、流星が泣きながら胸に飛び込んでくる。
恭平
けんにぃ……
駿佑
……いっちゃ、やだ……
流星
にぃ……
そこでようやく、分かった。




――夢ちゃう。



謙杜
……ただいま……


その一言で、全員が泣き崩れた。

生きる選択肢が、消える寸前。

六人の想いが、謙杜を現実へと引き戻した夜だった。

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