生きる選択肢が、残り三分を切った。
心電図の音が、やけに大きく響く。
冷たい機械音の中で、丈一郎たちはただ祈ることしかできなかった。
和也はベッドの横で、謙杜の冷たい手を強く握りしめている。
大吾は俯いたまま、何度も首を振った。
恭平は小さな両手で謙杜の指を包み込む。
駿佑と流星も、必死に声を振り絞る。
残された時間が、刻一刻と削られていく。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
💛side
――その頃。
俺は、家のソファに座っていた。
テレビはついているのに、音がしない。
部屋は妙に静かで、胸の奥がざわつく。
何気ない日常。
でも、どこかおかしい。
いつもなら、和にぃの大きな声が飛んでくる。
その声が、今日は一切しない。
立ち上がって、家の中を見渡す。
床には服。
テーブルの上には、食べ終わったままの食器が何枚も重なっている。
綺麗好きな和にぃがおる家とは思えん光景。
胸の奥に、じわっと不安が広がった、その時。
隣の部屋から、線香の匂いがした。
嫌な予感に背中を押されるように、襖を開ける。
――そこにあったのは。
俺の遺影だった。
白黒の写真。
その前で、丈にぃ、和にぃ、大にぃ。
そして、駿佑、恭平、流星。
全員が泣きながら、手を合わせている。
意味が分からなくて、一歩踏み出す。
その瞬間、自分の手が透けていることに気づいた。
胸に手を当てても、何の感触もない。
そこで、ようやく分かった。
――俺、死んだんや。
息が詰まる。
喉が震える。
守るって言ったのに。
一緒に生きるって決めたのに。
必死に兄ちゃんたちの元へ駆け寄る。
でも、触れられない。
声も、届かない。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _
一方、現実の病室。
丈一郎たちは、残された時間を使うように、謙杜との思い出を語っていた。
その言葉は、確かに俺の胸に届いていた。
――兄ちゃんたち、そんなふうに思ってくれてたんや。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
そう思った瞬間。
強い光が、視界いっぱいに広がった。
身体が、引き戻される。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
💛side
目を開けると、そこは白い天井。
消毒液の匂い。
機械音。
視界がぼやける中、すすり泣く声が聞こえた。
そちらを見ると、丈にぃ、和にぃ、大にぃ、恭平、駿佑、流星。
全員が泣いている。
きっと、いい夢を見てるんや。
逝く前やし、最後にええ夢を見とこ。
そう思って、力を振り絞る。
その瞬間。
全員の動きが、ぴたりと止まった。
次の瞬間。
丈にぃが、思いきり抱きついてくる。
和也も、大吾も、次々と抱きしめてくる。
恭平と駿佑、流星が泣きながら胸に飛び込んでくる。
そこでようやく、分かった。
――夢ちゃう。
その一言で、全員が泣き崩れた。
生きる選択肢が、消える寸前。
六人の想いが、謙杜を現実へと引き戻した夜だった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!