第103話

違和感の正体
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2026/04/11 09:00 更新
💛side




――旅行当日。



玄関を開けた瞬間、空気が違った。
いつもと同じ朝のはずやのに、胸が少しだけ高鳴ってる。


丈一郎
よっしゃ、忘れもんないな!
大吾
何回確認すんねんそれ
恭平
はやくいこってば!
流星
ひこうきのる!




みんなの声が重なって、思わず笑いそうになる。




キャリーケースを引いて外に出る。








その瞬間――






謙杜
……っ




視界の端。



家の横の、細い路地。
ブロック塀の陰。



――動いた。


謙杜
……え?




確実に“人”がおった。
一瞬だけやけど、確かに。



足が止まる。



心臓が、ドクンって大きく鳴った。



なんでか分からん。
でも、めっちゃ嫌な感じがする。


和也
謙杜?




振り向くと、みんながこっち見てる。


謙杜
……なぁ
謙杜
あそこ、人おった気がしてん




空気が、一瞬だけ張りつめた。



丈一郎
どこや




指をさす。


謙杜
あの塀




丈にぃと和にぃがすぐに動いた。


丈一郎
見てくるわ
和也
お前らはここおれ




二人が静かに近づいていく。



その背中を見ながら、俺は動けへんかった。



胸がざわつく。




――あの感じ。



どっかで、知ってる。












数秒後。



二人が戻ってくる。



丈一郎
……誰もおらん
和也
気配もない



謙杜
ほんまに?



大吾
見間違いやろ
大吾
今日から旅行やねんから、変なこと考えんな




軽く笑われる。


謙杜
……うん




そう返したけど、
胸のざわつきは消えへんかった。


丈一郎
ほら行くで!



歩き出す。



――でも。



背中に視線を感じた気がして、
振り返りそうになる。


謙杜
……気のせいや




無理やり前を向いた。






駅までの道。


駿佑
東京でさ、あれ乗ろうや!
恭平
ジェットコースター!
流星
おっきいやつ!



和也
北海道では雪やな
丈一郎
転ぶなよ




みんな楽しそうで、
俺もつられて笑う。





でも。





頭の片隅に、ずっと残ってる。





さっきの“影”。















――その頃。



 
 
ブロック塀の陰。





ゆっくりと、人影が動いた。


……気づきかけとったな




低く、笑う声。


でも、もう遅い
二人は、遠ざかっていく七人の背中を見つめていた。





その目にあるのは――




明確な憎しみ。



覚えてるか
あのガキら



忘れるわけないやろ
泣き叫んだ顔、まだ残ってるわ




そう。



あの日、謙杜・駿佑・流星を誘拐した犯人たちだった。


男・1
捕まって終わり?ふざけんな
男・1
こっちはまだ終わってへん



男・2
せやから、出てきたんやろ
男・2
檻ん中で腐るためちゃう




――脱獄。





普通じゃ考えられへんことを、
この二人はやってのけた。





その理由は一つ。


男・1
全部壊したる
男・1
あいつらの生活ごと




男がポケットから取り出す。





カチッ、と小さな音。





ライター。



男・2
家や
男・2
帰る場所なくしたら、また同じ顔する




あの日みたいに。





恐怖で、何もできん顔に。


男・1
楽しそうにしてたよな
男・1
ムカつくわ




視線は、もう七人には向いてない。





――家。





七人がやっと守った場所。


男・2
戻ってきたら、全部終わっとる




静かに笑う。





その笑いは、人のもんじゃなかった。






――そのことを。





俺らは、まだ知らん。






電車の中。



駿佑
なあ謙杜、どこ回るかもう一回決めよや
駿佑
なあ謙杜、どこ回るかもう一回決めよや



謙杜
ええな
謙杜
時間足りんくらい詰めるで



大吾
それ楽しみなんか地獄なんか分からんわ




笑いが起きる。


流星が腕にくっついてくる。


流星
にぃ
流星
はなれへん?



謙杜
離れへんよ
謙杜
ずっと一緒や



その言葉を言った瞬間。





胸が少しだけ、締めつけられた。






なんでやろ。






楽しいはずやのに。






ワクワクしてるはずやのに。






それでも――






消えへん違和感。






まるで、




何かが始まる前みたいな。






静かな、不安。







電車は進む。





笑い声と一緒に。






でもその裏で。






確実に、




“あの日の続き”が動き出していた。

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