第98話

背中を支える夜
775
2026/02/21 09:00 更新
②と③の展開を見たいという方のコメントがたくさん寄せられたので②と③の展開を書いていこうと思います。

たくさんのコメントありがとうございます♪


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _






謙杜が意識を取り戻す、ほんの少し前――。




病室の重い扉が、静かに閉まった。

廊下の白い光が、やけに冷たく見える。
和也は数歩進んだところで足を止めた。

震える手を壁につき、そのまま崩れ落ちる。
和也
……っ……
声にならない息が、喉から漏れる。
和也
俺が……
和也
俺がちゃんと気づいてたら……
拳で床を叩く。
何度も、何度も。
和也
もっと早く異変に気づいてたら……
和也
苦しい思い、させんかったかもしれんのに……!
病室で必死に耐えていた涙が、堰を切ったように溢れ出す。

和也はいつも、誰よりも家族を見ていた。
小さな変化にも気づく、綺麗好きで、世話焼きで、口うるさいくらい優しい兄。

だからこそ、自分を許せなかった。
和也
俺が……兄ちゃんやのに……
その背中は、小さく震えていた。
その後ろから静かに足音が近づく。

丈一郎だった。

何も言わず、しゃがみ込む。
そして、泣き崩れる和也の肩を強く抱き寄せた。
丈一郎
……お前のせいやない
低く、震える声。
丈一郎
何があっても
丈一郎
お前のせいやない
和也は首を振る。
和也
でも……!
和也
俺、あいつの兄やで……!
丈一郎
俺もや
その一言に、和也は息を詰まらせる。
丈一郎
俺も兄や
丈一郎
守る側や
丈一郎
でもな……全部は守られへん時もある
丈一郎の声も、もう震えていた。
丈一郎
……俺だって怖い
丈一郎
めちゃくちゃ怖いわ
丈一郎
失うかもしれん思ったら……頭おかしなりそうや
和也は、丈一郎の胸元を掴む。
和也
……いやや……
和也
謙杜おらん未来なんか……いやや……
丈一郎
分かっとる
ぎゅっと、さらに強く抱き締める。
丈一郎
せやから今は
丈一郎
一緒に耐えよ
廊下には、二人の押し殺した泣き声だけが響いていた。

弟たちの前では見せられない顔。
強い兄でいなければならない立場。

それでも今は、ただの兄弟だった。

和也の涙が、丈一郎の肩を濡らす。
丈一郎の涙も、和也の背中に落ちる。
丈一郎
……戻ってきてくれ……
和也
……頼むから……
その時。

病室の方から、かすかな慌ただしい気配がした。

二人は顔を上げる。
扉の向こうから、誰かの声。

「……兄ちゃん……」

一瞬、時間が止まる。

丈一郎と和也は、目を見開いた。
和也
……今の……
丈一郎
……聞こえたよな……?
次の瞬間、二人は同時に立ち上がった。

泣き腫らした顔のまま、病室へと駆け出す。

崩れ落ちた夜の先に、かすかな希望の光が差し込もうとしていた。



96話に戻ります🔙

プリ小説オーディオドラマ