絶賛全力逃走中。というのも、ブラックが企画し設営したブラックランドのマスコットのうさぎが大群で俺たちを追い回している。全員を振り切らないと、この遊園地からは出られない。後ろから追ってくる者、行先に待ち構える者、不意に物陰から出てくる者とキリがない。空を飛んで逃げることも考えたが、更には不気味な怪鳥が無数に飛び交っている。行手を阻まれ道を逸れながらも、この気味の悪い遊園地の出口が見えてくる。もう少し踏ん張れば、きっと逃げ切れる。
疲労で足が回らずもたれて転ぶ。元々鈍足な彼。最早ギリギリの距離で逃げていた。咄嗟に振り向くアカネちゃん。…ここで全滅しては意味がない。せめて、動ける者は逃げ切らなければならない。
震えた彼女の声。苦渋の決断だったのだろう。英断だよ。さとしくんを抱えて入口まで走る、けれども重量が増し速さが足りない。このままでは追いつかれる。後ろを一瞥すれば、思ったよりもあのうさぎは近い。…仕方がない。
さとしくんの両腕を掴み、ハンマー投げの要領で入り口の門の外へ放り出す。アカネちゃんに受け止められて無事らしい。よかった。勢いで膝をつき、立ち上がろうにも体が言うことを聞かない。禍々しいうさぎに囲まれてしまった。門の外からは俺を呼ぶ悲痛な声が止まない。遊園地の門が閉まり、おどろおどろしい黒い霧に包まれて外の様子がわからない。2人が逃げ切れたなら、それでいい。俺を見下ろすうさぎ達に、身を委ねる。
うさぎにおんぶされ、別のうさぎがドリンクを渡してくる。受け取って一口、喉を潤す。ああ、この喉が渇いた時に水分入れて喉剥がれそうな感じ…。もふもふのおんぶは悪い気はしないな。このブラックランドをアカネちゃんとさとしくんに体験させる為にブラックは案内役を務めたのだが、それだけでは盛り上がりに欠けるということで…俺は初めて来たというテイで盛り上げ役をさせられていたのだ。所謂、サクラというやつだ。確かにいきなり言われたから打ち合わせはなんのこっちゃって感じだったし、ロケハンもなかなかに怖くてゲロ吐くかと思ったけど。ブラックが傍についていてくれたからなんとか平気でいられた。
当たり前だ、俺も命は惜しい。ホラーハウスでバイトしません?なんて誘われたが…普通に嫌だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。