まぁ乳見たいにしろケツ見たいにしろ、鬼女や腹黒狸の方に行かずに俺を女体にする事を素で選んだブラックは、好感持てるのだけど。以前と仕様も服装も至って同じ。ワインレッドの胸の開いたブラウスに黒のミニスカのタイトなスカート、少し踵の高いサンダル。に、いつもの白衣。髪の毛も長く声も高くなっている。鏡も見れば確かに顔つきが女性らしい。以前と違うところがあるとすれば、胸が一回りでかい。重たい。

元々天パで緩く巻かれている髪。長くなった分毛先が顔をくすぐって邪魔くさい。耳にかけるとブラックがおぉ…と感嘆の声を漏らす。おお、じゃない。なんだよお前らしくない、違和感が気持ち悪いよ。……見られて悪い気は、しないけどさ。

こうしてなってみてわかるけど、胸のある女性は大変だ。重くて肩が疲れるし、走ると揺れて痛いし、谷間が蒸れて痒い。締め付けも苦しいし…異性からの好奇な目を良しとするか悪しとするかは個人にもよるけど、良しとしてもデメリットが大きい。………蒸れて乳が痒い。少し汗の処理しとくか。トイレ、と席を外そうと立ち上がると凄い勢いで谷間に黄色い何かが飛び込んでくる。何だ、なんか挟まってんな、何だこれ。

片手で引き剥がして地面に叩きつける。鼻血を垂らしながらも恍惚としているこの二足歩行のキリン、不気味だ。

全く聞いちゃいないけど。キリンが口角上げながら白目を剥いて笑う姿初めて見たかもしれない。読者のみんなにはイラストでデフォルメ化されてキリンが見えているのかもしれないけど、実物を目の前にしている俺には、首の短い実写のキリンが二足歩行で歩いているから怪異にしか見えない。うわ、歯並びめっちゃいい…門歯がめちゃ綺麗。

興奮しきっているキリンと嗜める様子もなくその様を見てカラカラと笑う悪魔。カオス過ぎる状況にため息が出てしまう。さて、場を沈めるにはどうしたものか。椅子に腰掛けて足を組み手を頬に当てて考える。考えあぐねる間にいつの間にかあのダミ声でやかましい声は無くなっていた。首を傾げれば巻かれた毛先が肩からさらりと落ち胸元をくすぐる。

ふと勢いに釣られて見上げる。両手と両足裏を合わせて俺に飛び込んでくるキリン。合わせているのに空中で脱げてひらひらと落ちる衣服。…こういう飛び方なんていうんだっけ。ああ、ルパンダイブだ。ズボンと下着も華麗に脱ぎ去る。露わになるキリンの、…キリンの、キリンが、

何かに射抜かれたように跳ね返って離れていくキリン。そのまま床に仰向けに転がり白目を剥いて気絶している。どういう物理法則が働いているんだろう。

この悪魔め。なんて言えばどうせ、言ってませんでしたっけ？とすっとぼかれるから言わないでおこう。にしてもこのキリン、論撃で気絶するなんてメンタルの弱い…。近くにあった布を被せてから肩を揺すると案外すんなりと目を覚まして。静かにいそいそと服を身につけ始めた。その背中の小さい事。

とぼとぼと歩くあの哀愁漂い過ぎる背中、しばらく忘れない気がする。