ブラックの家は結構広い。寝室、浴室、トイレ、キッチン、ダイニング、リビング、書斎、編集室…収納もなかなか。それにロフトまでついてる。基本、編集室がブラックの私室になっていて、物置状態だったロフトを俺の私室代わりに使わせてもらっている。独立洗面台だし、モニターホンだし、オートロックだし、トイレも洗浄機能ついてるし…それでいて2階以上ってかなり物件としては家賃高いんだろうなぁ…とか思う。ゴミ出しでキー忘れて締め出し食らったのはいい思い出だ。そんなことももうなくなったけど。
休日はいい。自分の起きられるタイミングで目を覚ませる。うとうとと微睡みながらSNSをダラダラ見て…休日は幸福だ。目覚めた時点で既に12時。そこからダラダラ時間を潰して12:30。重たい体を起こしてあくびを一つ。いつも一緒に寝ているはずのブラックがいない。珍しいな、いつも朝方寝て昼過ぎに起きるのに。編集室にいるのかな。未だ重たい瞼を擦り、夢現な頭を起こして編集室に向かう。ゲーミングチェアに腰掛けた彼。後ろからぎゅ、と抱きついてみる。ブラックの匂いだ。
ブラックにぶん殴られたんですが。鼻っ柱絶対潰れた。顔を覆い痛みに悶える。鼻は痛い、鼻は…。あ、ヤバッ…と小さく聞こえる。俺ブラックに殴られるようなことしたっけ。思い返しても身に覚えがない。時々こうやって寝起きに甘えたりしてたし今日が初めてじゃないし…なんならブラックが甘える時だってあったけど。状況が飲み込めずに頭が「?」だらけである。ぶぶも肩の上で宇宙猫になってる。てか力強っ、鼻痛くて涙出てきた。
大丈夫ですか?ほら、鼻血。拭いて下さい。とティッシュを箱ごと手渡される。何なんだこの違和感。ブラックは、ブラックなのにブラックじゃないみたいな雰囲気で気持ち悪い。アカネちゃんはアカネちゃんなのに、手を触れたり笑いかけられると嬉しくて安心してちぐはぐな感じがして。二人を交互に見やれば違和感がより大きくなって。
そんなこと言われても。でも確かに、アカネちゃんからはブラックと一緒にいるみたいな居心地の良さがあって、ブラックはブラックじゃないみたいだけどブラックで、…確かにどっちもブラックと言われればブラックで…。
わかってるじゃあないですか。とアカネちゃん(もといブラック)に頭を撫でられる。撫で方がブラックと同じだから少し気持ちが落ち着いた。浮かんだ涙を指で掬われるとなんとも言えない安心感に包まれる。愛でるように触れられるとキスしたくなる。寝起きだしついさっきまで不安だったから尚更。ついそのまま目を閉じる。
一向にキスが降りてこない。ちゃんとキスで安心したかった。目を開けて二人が言い争っているのを見て置いてけぼりにされている気がして寂しい。眉を下げて唇を尖らせ黙ると二人の飛び交う怒号(一方的に片方が怒鳴ってるだけだけど)が止む。そして二人で見合わせ絶対アイコンタクトを取って頷き合う。
ブラックに抱きしめられアカネちゃんに慰められる。ブラックの体温と匂いに包まれて、声色は違くてもブラックの言葉に気持ちが和らぐ。そんな風にされてしまったら、もう、無理なんて言えるわけがない。ゆっくり頷けば、いい子です♪と撫でられる。アカネちゃんの動画の予定の為に二人は出て行ってしまったが、ちゃんと待ってブラックが帰ってくるのを待ってあげないとな。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。