第46話

一夏も二夏も、君とn回過ごす夏
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2021/08/09 17:25
「17日、空けておけよ。絶対撮影も編集も投稿も入れるな。」そう釘を刺されてのは1週間前。今月は投稿ペースが多いから自信はなかったが、予定を見れば幸いその日は何もない。その日というか、今日なのだけれど。どことなくそわそわと1日過ごしてしまったが、彼からのアクションは何もなく。日が傾き始めた頃にもぞもぞと動き出し、鏡の前でああでもない、こうでもないと慣れない浴衣を着始める。よし、できた、と息を巻く彼の浴衣ははだけるどころか帯一枚で何とか体に繋がっているようなものだ。スマホのアプリで後ろから浴衣に着替えさせる。
(なまえ)
あなた
わ、……便利だな、そのスマホ。
ブラック
ブラック
浴衣なんて着てどうするんです。というか予定があるのでは?オレちゃん、今日フリーにしてたんですけど。
(なまえ)
あなた
ブラックも浴衣になりなよ。始まっちゃうよ。
始まる、とは何なのだろうか。浴衣姿で大方想像はつくけれど。前髪ごとハーフアップにして、白地に薄い紫と水色の模様が散る浴衣。……艶やかさがある、素直にそう思ってしまった。軽く急かされて浴衣に着替える。ぴたりと肩を寄せるあなた。…いつもと違う彼を見るのもいい、なんて思いながら見つめていると見慣れない場所は飛ぶ。小高い土地に建てられた神社。大それたものではない無人の神社だ。街灯りが薄闇に映える。…街灯りじゃない。提灯と屋台の灯り。
ブラック
ブラック
祭り、ですか。
(なまえ)
あなた
ううん、花火大会。さとしくんから花火見れなかったって聞いたしさ。…俺もその日は仕事で行けなかったし。………一緒に見れたら、って。
下調べしたんだぜ、東北の方で花火やるんだって調べて…ロケハンして人気のない穴場まで見つけてさ。屋台回る時間はないけど、ほら、酒!やっぱガキがいると飲めないからさ!大人同士しっぽり飲みながら見ようぜ。冷えたコークハイを受け取る。興奮気味に教えてくれる彼。オレちゃんのために、デートのために、色々計画を立ててくれていたのだと思うと、どこかいじらしさが込み上げてしまう。抱きしめようと手を振れた瞬間にドン、と腹奥に響く音が鳴り始める。神社の寂れたベンチに腰掛け肩を並べて花火を見つめる。
(なまえ)
あなた
花火、動画とかでは見たけどさ、…本物迫力あるな、…綺麗。火薬の匂い好きかも。
ブラック
ブラック
…ええ、とても綺麗、ですね。
カシュ、と缶のタブを開ける。煽れば炭酸とコーラの奥にアルコール。…回ってしまいそうだ。青や赤、緑と散る花火に照るあなたの横顔。綺麗、とか、美しい、とか、そういうものではなく、ただただ、好きという感情だけが湧き上がる。あなたがレモンサワーから口を離したのを見計らってそっと、彼の口に唇を置く。
(なまえ)
あなた
……雰囲気あてられた?ブラックらしくない
ブラック
ブラック
…酔ってるのかもしれないですね
ふ、と笑って彼からも優しくキスが降りる。……満ち足りている、というのはこういうことなのだろうか。動画や炎ターテインメントとは違う、穏やかな幸福感。口に混ざるレモンとコーラ。惜しむように味わって口を離す。花火に向き直ればあなたは肩に頭を擡げる。
(なまえ)
あなた
…来年も、こような。ずっと一緒に、花火見に来ようよ。
ブラック
ブラック
ええ、…一夏も二夏も、……n夏も。
(なまえ)
あなた
n?
ブラック
ブラック
自然数nです
(なまえ)
あなた
ああ、…そういうこと?何だそれ
失笑する姿に胸がきゅ、と狭くなる。一際大きな花火が空に散り、終わりを告げる。あっという間だった。体に残る音圧の余韻と後の静けさ。物悲しく寂しい余韻も、また一興かもしれない。はぁ、と一息大きくつく彼。楽しかった、ありがと、一緒に来てくれて、と指を絡ませ繋ぐ。楽しませてもらったのは、こちらなのだけれど。
ブラック
ブラック
…あなた、
(なまえ)
あなた
んー?
ブラック
ブラック
……帰ったら、…いいですか。
(なまえ)
あなた
ぁは、……いいよ、デートなんだし、さ。
ブラック
ブラック
…オレちゃん今、あなたが欲しくてたまりません、
(なまえ)
あなた
奇遇、俺も…。ブラックと来れたのが幸せで、…このまま今日を終わりたくない
見合って照れ臭く思わず笑ってしまう彼。酔いと夏に当てられるのも、悪くないなんて、…本当に、オレちゃんらしくない。

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