私の足は多分折れてて走れそうになかったので、煉獄さんが背負ってくれた。
現役の柱が呼吸を使って走るとこんなにも早いのか。
爆走したチャリか車並の速さだな、これ…w
私が一瞬で過ぎ去っていく景色に感動していると、ふと蜜璃ちゃんから声がかかった。
私の家は呉服屋であること、声がして目を覚ましてみたら上弦の弐がいたこと、両親は多分もう死んでいること、母様に言われてお店にある日輪刀を持って逃げてきたことを伝えた。
違う。それは違うのだ。私は呼吸が使えない。最初に日輪刀を抜いた時、確かにこの目で日輪刀の色が変わらなかったのを見た。何故あの時氷の呼吸を使えたのか、日輪刀の色が淡い、薄い空色に染まっていたのかは分からない。しかし、童磨の頸を斬ったあと元の色に日輪刀が戻るのも確認した。
鬼の存在も鬼殺隊の存在も私が知っているのは私が転生してきたから、なんて言えるはずもなく。母様がお店に日輪刀を置いていた理由は分からないけれど。
蜜璃ちゃんの優しさに安心し、今まで張り詰めていた緊張の糸がスルスルと解けていくような感じがする。ほっとして涙が出そうになるのをぐっとこらえる。
私が童磨の頸を斬り落とした時に決めたことがある。それは_______________
あの刃を振るうまでは、あの一突きをするまでは、私は将来家業である呉服店を継ぐのだと思っていた。私は写山家の一人娘。両親のあとを継ぐのは私しかいないからだ。江戸中期から写山家の人間が代々継いできたものを私も継ぐのだ、と。そんな考えは今日、あの瞬間に消えた。私は転生者。ここが鬼滅の刃の世界線ならこの先起こることを私は知っている。死ぬ運命にある人を救えるかもしれない。悲しむはずだった人を悲しませなくて済むかもしれない。それならば私はその運命を、悲しみを断ち切る刃となろう。何かしらの役に立てるのではないか、そう思うのだ。
私が!?炎柱の!?継子に!?私の推しの!?え゛ッ……………
嘘でしょ………
夢みたーーーーーーーーーい!!!!
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藤の花に囲まれたそこは鬼殺隊本部、産屋敷邸。
石が敷かれた庭に跪く九つの柱。
一方で私は椅子に座らされていた。足の怪我を考慮してのことだろう。
それにしても…いやいやいやいや!柱の皆さんアニメそのまんま!画面の中から出てきたみたいな…皆さん個性派で…
水柱の義勇さんは端正なお顔立ちで作られた無表情を崩さずに本当に端っこにいるし、蟲柱のしのぶさんは笑顔だけで人をノックダウンさせられるような美しい笑みを浮かべてるし、音柱の宇髄さんは存在自体が派手で太陽に反射してキラキラしてるし、霞柱の無一郎くんはほんとにぼーっとしてるし、蛇柱の伊黒さんは本当に木の上にいるし、風柱の不死川さんは傷だらけで見てるこっちまで痛くなりそうだし、岩柱の悲鳴嶼さんはデカすぎてその圧に圧倒される。
これが鬼殺隊の最高位に君臨する“柱”なのか……。
『お館様のお成りです。』
私が柱の皆さんに感動しているとどこからか鈴の音のような声が聞こえてきた。
そして襖の向こうから出てきたのは、お館様と呼ばれる産屋敷耀哉だった。
私はここでしのぶさんの顔が僅かに歪むのを見逃さなかった。私は童磨を斬ればカナエさんは報われて、カナヲちゃんや伊之助が後で涙を流すようなこともないはず、とそう信じて疑わなかった。
だけどしのぶさんは?自分が姉の仇を討つと努力してきたしのぶさんは?
私は自分のことだけで人のことを全く考えていなかった。本来なら存在しないはずの“私”という異質な存在が鬼滅の刃に干渉することで原作にどのような影響を与えるか、全く考えていなかった。
ざっと一気に視線が私に集まる。疑いの目を向ける者、好奇の目を向ける者、驚きを隠せない表情を向ける者。視線に乗せた感情は様々ではあるが、どれも私に刺さってとても痛い。
私はそういうと持っていた日輪刀を鞘から抜いた。
もちろん日輪刀の色は変わっていない。
私の日輪刀の色が変わったのは何故だろうか。色が変わったのは確か童磨の血鬼術を弾いた時……
正直日輪刀同士を当てて色が変わるかは分からない。もしかしたら血鬼術限定のものかもしれない。けれど、やってみなければ分からない。
鉄色をしていた私の日輪刀は煉獄さんの日輪刀が当たった刀の先から赤い炎の色に染まっていった。
それはまさに、「炎の呼吸を使う者の日輪刀」だった。
日輪刀が様々な色に変わる。これは一体なんなのか。
私は呼吸が使えない。それなのに………
そこへ_______________
「鏡の剣士」……?そんなもの原作にはもちろん登場しない。するはずがない。だって原作に私はいないのだから。本来いるはずのない私が存在することによって確実に原作が変わってきている。私のせいで及ぼす影響がいいものか、悪いものかは分からない。もし、悪いものだった場合、私は責任を取り切れる自信はない。本当に私は鬼殺隊に関わっていいのだろうか……
しまった…考え事に夢中でお館様のお話を聞いていなかった…
お館様にも認められて、私は晴れて煉獄さんの継子に…!推しの一番近くで推しを眺められる!!!!
さて、私も煉獄さんと一緒に帰ろうかなー…
え゛……
鬼殺隊の本部に初めて来たその日にお館様と1対1で話すとか無理すぎるーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
✂︎-----㋖㋷㋣㋷線-----✂︎
〇鏡の剣士の夢主ちゃん
鬼を倒してそのまま鬼殺隊本部に運ばれた。推しの背中幸せ〜とか思ってたら柱の圧にびっくり。自分は謎の「鏡の剣士」とやらだと分かり改めて自分が鬼滅の刃にとって異質な存在であると再認識する。お館様と話すとか無理ッ…
〇鬼殺隊九つの柱
こんな小さな少女が鬼を斬っただと!?信じられん。
〇産屋敷夫婦
とある少女が上弦の鬼を倒したという鴉の報告を聞いて目をひんむいた。時雨が「鏡の剣士」だと知って納得。自分の代にあの伝説の「鏡の剣士」が現れてとても嬉しい。杏寿郎の継子になるなら心配なし!また子供が増えそうだね、頑張ってね、時雨。
※鏡の剣士とは……
伝説と呼ばれる剣士。存在するかも怪しかった。日輪刀の剣先に触れた血鬼術、呼吸を吸収し、完璧に使いこなす。鏡写しのように使いこなす仕草から名付けられた。
基本的にどんなものでも使える。唯一の欠点は鬼を一体斬るごとに呼吸がリセットされること。1対多数の戦いには不利。
遅くなりました!鏡の剣士の設定はこれから当たり前のように出てくるのでご理解の方よろしくお願い致します!!!!
コメント待っておるぞ(殴)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!