『ガバッ』
知らない人の声がして飛び起きた。誰だ?こんな夜中に…
とよさん以外の使用人が私の部屋に入ってくることはあまりない。
暗闇に目が慣れてきて、初めて誰か隣に立っていることに気がついた。
『あなたは誰?』
そう言いかけた言葉は途中で止まった。見たことがあったのだ。その人を。
明るい髪色にてっぺんだけ血を被ったような模様。どこかの教祖のような帽子。金色の扇。虹色の瞳。そして_______________
瞳に刻まれた「上弦 弐」の文字
そう、その姿は正しく私が前世で好きだった「鬼滅の刃」に出てくる鬼だった。
しかも十二鬼月。しかも上弦。
ちょっと待ってよ、色々頭が混乱している。まず、童磨がここにいるってことはこの世界は鬼滅の世界線!?
夢じゃないよね…?
てか、そんなことよりも「美味しそうだね」って言った!?私食べられる!?ちょっと待って、やだ!
逃げn………
薄暗くてよく見えなかったけれど童磨の口の端からは確実に赤黒い汁が滴り落ちていた。見るからにまだ新しい。
その持ち主は多分、
とよさん達使用人はこの時間お店の仕込み作業をしに屋敷の向かいにある店舗の方にいる。こんな真夜中だけど、確かそうやって前にとよさんから聞いたことがある。
となると、この屋敷にいるのは私と、父様と母様だけなのだ。
そう考えるや否や私は部屋を飛び出した。向かうは両親の部屋。
父様…母様…!どうかご無事で……
ダダダダダダダダダダダダダダダダッ
スパーンッ!
私は勢いよく襖を開けた。
私の目の前に広がっている光景は赤一色だった。
血、血、血。
間に合わない、父様と母様は童磨に襲われた後だった。
嫌だ!そんなの嫌だ!私を愛してくれた父様と母様。厳しくも優しく育ててくれた人。私が転生してきた人間だとしても私は大正時代のこの両親を心の底から愛していた。大好きだった。そんな2人が今、私の目の前で息絶えようとしている。
母様が私を呼ぶ声は久しぶりに鋭く、冷たかった。
2人からは明らかにおかしい「ヒューヒュー」という息の音が聞こえる。もう2人は長くないのだろう。覚悟を決めて行かなきゃ。
母様はお店の方に日輪刀があるって………日輪刀?あの?
え、なんで持ってるの!?母様もしかして元隊士!?
もうすぐ死ぬであろう両親を最期まで看取れないのは非常に残念だ。しかし今の私にはやらなければいけないことがある。
両親の部屋を飛び出し、屋敷の向かいの「写山呉服店」の店舗へと走る。確か呼吸があったよね…肺を大きく膨らませて血を手足の先まで巡らせて……
私が呼吸を使えるかなんて分からないけど、やってみるに越したことはない。
私が発した「鬼」の一言に使用人達が一斉にざわめく。それほどに鬼は恐ろしい存在なのだ。今まではアニメの中の世界だったからさほど鬼に対する恐怖というものはなかった。しかし、実際に両親に致命傷を与えられて殺されそうになると、否が応でも恐怖を感じずにはいられない。
日輪刀は重く感じた。それでも体の中にある体力を振り絞って、呼吸に意識してひたすらに走った。
後ろで童磨の声…!追いつかれる…逃げなきゃ!
住み慣れた商業町をひたすらに駆け抜ける。少しでも遠くへ。少しでも早く。
うわ!童磨の血鬼術!!生で初めて見た!!すごい!!
じゃなくて!死ぬ!!これは死んだ!
でも私はやる時はやる女。すぐさま刀を抜く。
ああ、私呼吸使えないんだ…まぁそうだよね。私モブだし。鬼滅の刃では。
呼吸が使わなくとも血鬼術で作られた氷を避けることくらいはできるはず。
カキンッ
日輪刀で氷を弾く音が辺りに響き渡った。
一瞬だが、童磨が何かに驚いた。その隙を私は見逃さなかった………とはいかなかったけれど。
ブチッ
自分の中で何かが切れる音がした。そうだった。童磨ってこんな鬼だったね
氷の蔓が私に向かって伸びる。そうか、今さっき蓮葉氷使ったから……
これを弾くのはさすがに無理がある……
父様、母様、とよさん達、ごめんなさい。私はどうやらここまでのようです……。
✂︎-----㋖㋷㋣㋷線-----✂︎
○童磨に遭遇した夢主ちゃん
起きてみたら童磨が目の前にいてびっくり。ここが鬼滅の刃の世界線であることをようやく理解した。父様と母様はもうすぐ死ぬだろうし、上弦の弐だし、日輪刀持って逃げろっていうし、行き止まりに来たから刀を抜かないわけにはいかず、これ戦えってこと!?それはさすがに無理すぎる!しかも日輪刀を抜いた時に何も色が変わることなく、軽く絶望。これは死んだ。
○父様
誰かいる気配がして起きてみると知らない男がいてびっくり。後に鬼だと分かる。自分ではなく、妻の方が狙いだと分かってからは自分の身を犠牲にして妻を守る。庇って致命傷を負った人。写山呉服店6代目店主。
○母様この度童磨に殺された人2人目。夫に起こされて鬼が来たことを把握。せめて娘だけでも助かれば、と日輪刀を持たせた。時雨、鏡を信じなさい。
○とよさん
自分が仕える主人が2人とも亡くなった。時雨なら日輪刀を使いこなせると思っている。後に呉服店の7代目の店主になる。
○童磨
今回は何故か信者じゃない人を喰いに来た。本当はお母さんと娘だけ喰って帰るつもりだった。だけどお母さんの方は喰えれないし(喰うのをやめたし)娘はすばしっこいし、なかなか喰えない。しかもこの娘…。時雨の何かに気づいた。
今回めっちゃ長いやんw感想お待ちしております(❁´ω`❁)いいね♥️お気に入り⭐コメント💬待ってます!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!