【あなた side】
はぁ、何でこんなに憂鬱なんだろ、
天気のせいかな。
山奥にある白い大きな建物の窓から
ぼうっと遠くを見る。
遠くでは音がした数秒後に光が落ちている。
雨音が激しくなって来た頃、
コンコン、いやゴンゴンと
しつこくドアを叩く音が聞こえた。
そんな事をぶつぶつ言いながらドアを開けると、
見慣れない女性が3人。
身長は俺より10cm下ってとこ。
1人は雷に怖がってしゃがんでいて、
可哀想で見てもいられない。
とりあえずよく分からん3人組を玄関に置いて、
自分は洗面所にタオルを取りに行く。
3枚でいっか…
タオルを1人1人に投げつける。
その中で1人だけ、投げてもしゃがんだ状態から
動かない人が居た。
そう声をかけた数秒後、
落雷の音が近くで聴こえる。
同時に彼女の肩がびくりと動く。
相当なビビり……?いや、雷が怖いのか。
自分の事名前で呼ぶの、可愛すぎかよ。
そう言い残し、
たどたどしく靴を脱いだサナさん
(合っているかは分からないが)の
手を引いていく。
そう言うと、やっとこちらを見た彼女。
可愛い過ぎてうっとりしてしまいそうなのを
堪える。
上着は俺が拭いて畳んでおいて、
半袖になった彼女をリビングへ連れて行く。
と、また雷の音。彼女はしゃがみ込む。
流石に可哀想になって
腕の中に閉じ込めてしまえば、
彼女の耳がみるみる赤くなる。
そのまま彼女の頭をわしゃわしゃと拭く。
頭を拭き終わって彼女にタオルを
あげようとするも、返されてしまう。
なんて上目遣いで言うもんだから、
本当に耐えられない。
理性の欠片を集めて溜息を付く。
ハーフパンツから覗く露出度のとても多い足。
太腿の付け根あたりまで見えていて、
少し、いや相当エロい。
まずはびしょびしょの足先を拭く。
そのまま上に向かって太腿の内側辺りを拭くと
と嬌声の様な甘い声が聞こえる。
理性も崩壊しそうになりながら、
その声の主を見てみるとやはり真っ赤。
そのまま優しく足を拭いてあげて、
またもや雷にビビる彼女をソファーの上で
抱き締める。
と、さっきまで体を拭いていた2人が
リビングへ来た。
いや何で俺が悪いみたいになってんの……
急いでサナさん(?)を
ソファーの隣に置く。
と、また雷が鳴って
サナさん(?)は俺に飛び付いて来た。
可愛すぎるでしょ、もう。
静かそうな人は窓際に立って、
カーテンの隙間から雷に見入っている。
雷が好きなの…か?
この人達、色々やばい……
そこに立っていたうるさそうな人に聞く。
へへへ、と笑う彼女をよそに、
スマホで『TWICE』と検索する。
俺の思った以上に人気な彼女達は
世界中で人気らしい。
確かに『TT』とか聞いた事あるな…
社会現象にまでなったし。
と、その時またもや雷。
ミナさんは目をかっぴらいて見てて、
サナさんはびくびくして俺に抱き着く。
抱き締めてよしよしすれば、
ちょっと落ち着くみたい。
これサナさん推しにめっちゃ失礼だな…
ってか、なんでこんな有名なアイドルが?
出してきたのは俺の働く動物園の名前。
この人本当にうるさいな、とか思いながら
画面にいるTWICEメンバーの一人
『湊崎サナ』の文字に触れる。
サナは愛嬌がメンバーで1番〜〜である。
写真を見てみると、めっちゃ可愛い。
本人がいる前で言うのもちょっとだけど。
顔、真正面から見てみたいな…
でも当の本人は顔を見せるどころじゃないから。
と、ここでこいつら風呂はいった方が
いいんじゃね?という事に気付いた。
服は俺の姉貴のものが2枚くらいあったはず…
今日は夏にしては肌寒い気温。
風邪を引いてはいけないので、提案する。
そう言ってどたどたと風呂の位置を探し始める
モモさんに呆れる。
いつまで経ってもビビるサナさんを
仕方無くお姫様抱っこする。
軽すぎる…
サナさんは顔が真っ赤になってて、
間近で見るとやはり可愛い。可愛すぎる。
モモさんがギャーギャーうるさい事言ってるけど
気にせずに。
だって風邪引かれた方が困るもんね。
サナさんは少しぺこりとお辞儀をして、
その頬が赤くなっているのが見える。
騒がしい風呂場をスルーして自分の部屋へ行く。
自分の部屋は大きく、
黒を基調とした家具が少しだけ並ぶ。
クローゼットから服を1着取り出す。
シンプルな白いパジャマのパーカーと
茶色いズボン。
俺のサイズなのであいつらよりは
かなり大きいだろうが、仕方が無い。
次に姉貴の部屋…と言っても、
偶に来る時に泊まらせる為の部屋なので
本当に何も無い。
ここにはダブルベッドもあるし、
俺の部屋のベッドもダブルだ。
寝場所には困らない…はず。
俺は今日は自分の部屋のソファーで寝るかな。
姉貴のクローゼットにはやはりパジャマが2着。
これは多分あいつらくらいだろう。
その3着を風呂場の前へ置き、
一応ドライヤーもコンセントを差しておいて、
リビングのソファーでスマホを弄った。
しばらくすると、どでかい声で叫ぶモモさん。
そうだ、部屋の事言わないと。
誰か1人部屋になるって。
サナさんは雷が止んだからか
もうこわがっていなくて、
満面の笑みでこちらを向く。
やばい、可愛すぎる…
一目惚れ、したかも。
結局3人はじゃんけんして、
負けたサナさんが俺の部屋へ。
サナさんは俺の服を着ているからか、
ちょっとだぼっとしていてとても可愛い。
あなた、と呼ばれる度に胸がときめく。
流石に好きな人さえいた事の無い俺でも
すぐに分かった。
恋、しているかも。
その後サナさんと色々世間話をしている時、
サナさんが同い年の事に気づいた。
なんで俺敬語使ってたんだ…
サナさん…いや、サナは笑い方が
少々おかしいらしい。
それがまた可愛いのだが。
サナが俺にずっとくっついて離れない。
可愛いけど寝ないと…もう11時だぞ?
そんな事を考えていたら、
サナが急に思い切り抱き着いて来る。
やっばい、本当に可愛い。
とりあえずサナをお姫様抱っこして
ベッドにダイブさせる。
きゃっきゃ言ってるサナを置いておいて、
俺の布団をサナに使わせる。
その代わり俺はソファーで毛布を使ってでも
寝ようかな…
そんな事を考えていると、
サナに思い切り腕を引かれる。
なんて涙目でおねだりされるもんだから
仕方ない。
ダブルベッドに寝ているサナの横に入れば
サナが抱き着いて来て。
仕方なくそのまま寝る事にした。
それから30分。
俺はこんな状態でとても寝れなくて、
絶賛スマホを弄っている。
隣のサナはというと、多分寝ている。
サナ、可愛すぎ……
寝ているのをいい事に
さらさらの髪を撫でながら言うと、
サナの頬が心做しか朱に染まった。
寝てるふりを極めるサナ。
そう自分に言い訳して、
俺はサナの紅い唇にキスを落とした。
-これも全部、『雷のせい』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。