数時間後、私はパトカーのサイレンで目を覚ました。
なんだろう…。
窓から辺りを見渡すと、家の前に、パトカーと救急車が停まっていた。急いで玄関先に出ると、そこには、翔君が救急車に乗せられている姿があった。
私は必死で叫んだが、警察官に引き留められてしまった。翔君の家の方を見ると、警察官が出入りしているのが見えた。そう、パトカーは、私の家ではなく、翔君の家に停まっていたのだ。
誰が翔君にあんなことを…
絶対、許さない。
そう思っていると、中から、犯人らしき人物が出てくるのが見えた。それは…沙也加だった。
私の声に沙也加は気づいたようだったが、その顔は意気消沈とし、無表情としか言いようがなかった。
周りの野次馬を押し退けながら、私は沙也加に向かって絶叫した。しかし、沙也加は答えることなく、パトカーに乗り込んでしまった。
私は、生まれて初めて事情聴取というものを受けた。何を聞かれたかは覚えていない。ただただ淡々と、質問に答えるしかなかった。
その後、私は家へ戻った。そこには、お母さんがいた。どうやら、警察から事情を聞いているようだった。
お母さんは、ただそれだけ聞いてくれた。
どうしても食事をする気には慣れず、私は部屋で座り込むしかなかった。翔君のことも心配だったけれど、それと同時に沙也加のことも気になっていた。あの時、私があそこに留まっていたら、こんなことにはならなかったのかなー、そんな想いが巡り、私は一睡もすることが出来なかった。
翌朝も、お母さんは食事を準備していてくれたが、やはり、食べられなかった。
私は重い足取りで学校に行った。
教室に入ると、皆がザワついていた。
バレンタインだからかと思ったが、チョコを交換している様子はほとんど見られなかった。
すると、栞が話しかけてきた。
栞は私の反応と姿を見て、状況を悟ったらしく、私をそっとしておいてくれた。保健室に行くか聞かれたが、断った。
翔君…
切実に翔君の無事を祈っていると、先生が教室に入ってきた。先生は、教壇にのぼると、ひと呼吸おいてから、こう告げた。
その言葉を聞いた瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!